チームワークを高めるためのアサーション:建設的な意見交換とフィードバックの会話例
チームでの仕事は、一人で進めるよりも多くの可能性を秘めていますが、同時に意見の衝突やコミュニケーションの難しさに直面することもあります。特に、自分の意見を言うのが苦手だったり、相手に気を使って言いたいことが言えなかったりすると、チーム全体のパフォーマンスにも影響が出かねません。
アサーションは、相手を尊重しつつ、自分の考えや感情、要求を正直かつ率直に伝えるためのコミュニケーションスキルです。チーム内でアサーションを意識することで、より健全で生産的な人間関係を築き、結果としてチームワークを高めることが期待できます。
ここでは、チーム内での建設的なコミュニケーションに役立つアサーションの具体的な活用例を、会話例を交えてご紹介します。
チームミーティングでの意見表明
チームミーティングでは、様々な意見が出されます。自分の考えや提案を適切に伝えることは、議論を深め、より良い結論を導くために重要です。しかし、「間違っていたらどうしよう」「反対されたら嫌だな」といった不安から、発言をためらってしまうこともあるかもしれません。
アサーションを用いて、自分の意見を丁寧に伝える方法を見てみましょう。
シーン設定:新しいプロジェクトの方針を決めるミーティング
状況: チームメンバーがそれぞれ提案を発表しており、あなたも考えた案があります。
NG例(意見を言えない場合): (心の中で)「私の案も良いと思うんだけど、みんなと違う方向性だしな…黙っておこう。」
OK例(アサーションを使った意見表明):
Aさん:「新しいプロジェクトの方向性について、私からも一つ提案させていただけますでしょうか。」
チームリーダー:「はい、どうぞ。」
Aさん:「ありがとうございます。皆様のお話を聞いて、〇〇という方向性も大変興味深いと感じております。私の考えとしては、ターゲット顧客を△△層に絞り込み、まずは小規模でマーケットテストを行うというのはいかがでしょうか。その理由としましては、最近の市場動向から△△層へのアプローチが最も効率的である可能性が高く、リスクを抑えつつ早期にフィードバックを得られる点が挙げられます。」
チームリーダー:「なるほど、△△層に絞る具体的な根拠と、小規模テストのメリットですね。詳しく聞かせてもらえますか。」
ポイント:
- いきなり自分の意見を主張するのではなく、「〜について提案させてください」と許可を求める形で切り出すことで、話し始める際の心理的なハードルを下げることができます。
- 「私の考えとしては」「私は〜と考えます」のように「Iメッセージ」を使うことで、自分の意見であることを明確にしつつ、他の意見も尊重する姿勢を示せます。
- 提案の理由や根拠を具体的に伝えることで、意見の信頼性が増し、相手も内容を理解しやすくなります。
- 他のメンバーの意見に耳を傾けた上で発言することで、「皆様のお話を聞いて」といった言葉を添えることができ、協調性を示すことができます。
チームメンバーへの建設的なフィードバック
チーム内で協力して仕事を進める上で、お互いにフィードバックを与え合うことは成長のために不可欠です。しかし、ネガティブな内容のフィードバックは、伝え方を間違えると相手を傷つけたり、関係性を悪化させたりする原因になりかねません。アサーションは、相手への配慮を忘れずに、事実に基づいて具体的に伝えることを可能にします。
シーン設定:チームメンバーの資料に改善点があることに気づいた
状況: 同僚のBさんが作成したクライアント向けの資料について、誤字脱字や分かりにくい表現がいくつか見つかりました。
NG例(遠慮して言えない場合): (心の中で)「誤字が多いな…。でも、もう提出直前だし、本人が気づいてないのに言うのも悪いかな。私がこっそり直しておこうか。」
OK例(アサーションを使ったフィードバック):
Aさん:「Bさん、先ほど作成されたクライアント資料の件で、少しだけお話できますでしょうか。」
Bさん:「はい、なんでしょうか。」
Aさん:「ありがとうございます。資料の内容、大変参考になりました。いくつか確認させていただきたい点がありまして、〇〇ページのこちらの段落で、『(具体的な誤字や表現を引用)』となっている箇所なのですが、これは『(正しいと思われる表現)』とする意図でしたでしょうか。また、△△ページのグラフについて、数値の解釈が複数できるように感じましたので、もし可能であれば、注釈を加えるか、表現を少し調整いただけると、クライアントにとってより分かりやすくなるかと思います。締め切り前でお忙しいところ恐縮ですが、ご確認いただけますと幸いです。」
Bさん:「なるほど、誤字に気づきませんでした。グラフの方も、確かにその通りですね。ありがとうございます、すぐに修正します。」
ポイント:
- まずは相手の状況を気遣い、「少しだけお話できますか」のように切り出します。
- 具体的な箇所(〇〇ページのこの段落)や内容(誤字、グラフの数値)を示し、事実に基づいて伝えます。抽象的な表現や人格を否定するような言い方は避けてください。
- 「〜意図でしたでしょうか」「〜していただけると助かります」「〜なるかと思います」のように、決めつけではなく提案や協力を求める形で伝えると、相手は受け入れやすくなります。
- 感謝や労いの言葉(「資料の内容、大変参考になりました」「お忙しいところ恐縮です」)を添えることで、肯定的な関係性を維持しながらフィードバックを行えます。
チーム内での協力体制を築くための声かけ
チームワークを高めるためには、お互いに助け合い、協力する姿勢が不可欠です。自分が困っている時に助けを求めることも、他のメンバーが困っている時にサポートを申し出ることも、どちらもアサーションの一環と言えます。
シーン設定:チームメンバーのCさんが締切に追われている様子
状況: 同僚のCさんが、複数のタスクに追われて非常に忙しそうです。あなた自身の業務は一段落ついています。
NG例(気を使っていけない場合): (心の中で)「Cさん大変そうだな。でも、私が手伝うって言って、逆に迷惑になったらどうしよう…。」
OK例(アサーションを使った協力の申し出):
Aさん:「Cさん、お仕事お疲れ様です。もしよろしければなのですが、何かお手伝いできることはありますか。」
Cさん:「あ、Aさん。ありがとうございます。実は今、このデータ入力作業に時間がかかってしまっていて…。」
Aさん:「データ入力でしたら、私、今手が空いておりますので、もしよろしければ一部代わらせていただけましょうか。〇〇件くらいでしたら、本日中に対応可能です。」
Cさん:「本当ですか!それは大変助かります。ありがとうございます。」
ポイント:
- 相手を労う言葉(「お仕事お疲れ様です」)から入ることで、相手の状況に配慮していることを示します。
- 「もしよろしければなのですが」のように、相手にプレッシャーを与えない丁寧な言い回しで申し出ます。
- 具体的に「お手伝いできることはありますか」と聞くことで、相手は何を頼めるか判断しやすくなります。
- さらに、「〇〇件くらいでしたら本日中に対応可能です」のように、具体的に何がどのくらいできるかを伝えることで、相手は依頼しやすいですし、あなた自身も無理のない範囲で協力できます。
まとめ
チーム内でのアサーションは、円滑な人間関係を築き、チーム全体のパフォーマンスを向上させるための強力なツールです。自分の意見を適切に伝えたり、建設的なフィードバックを行ったり、お互いに助け合ったりすることは、信頼と協力を育む上で非常に重要です。
今回ご紹介した会話例はあくまで一例です。状況や相手に合わせて、言葉遣いや伝え方を調整することも大切です。完璧を目指す必要はありません。まずは小さな一歩から、チーム内でのアサーションを意識したコミュニケーションを試してみてはいかがでしょうか。アサーションの実践を通じて、あなた自身のコミュニケーションの幅が広がり、チームでの仕事がより快適で生産的なものになることを願っております。