忙しい時・抱え込みそうな時の職場アサーション:状況を正直に伝える具体的な会話例
職場で「忙しい」「手が回らない」と感じることは、多くの方が経験することです。新たな依頼が増えたり、予期せぬ問題が発生したりすると、つい一人で抱え込んでしまい、結果としてミスにつながったり、納期が遅れたり、何よりも自身の大きなストレスになってしまう場合があります。
しかし、このような状況を放置せず、自分の状況を正直に、かつ建設的に伝えることは、アサーションの実践の一つです。アサーションは単に自分の主張を通すことではなく、相手も自分も大切にするコミュニケーションです。忙しい状況をアサーティブに伝えることで、問題が深刻化する前に周囲の協力を得たり、業務の調整を行ったりすることが可能になります。
この記事では、職場において忙しい時や抱え込みそうな時に、自分の状況を適切に伝えるための具体的なアサーションの会話例をご紹介します。
事例1:新たな依頼を受けた時、既に手一杯な場合
上司や同僚から新しい仕事を頼まれたが、既に抱えている業務で手一杯で、これ以上引き受けると納期に影響が出るか、あるいは自身の負担が大きくなりすぎるという状況です。
NGな伝え方
- 曖昧に引き受けてしまう: 「はい、分かりました。やってみます。」 (実際には手が回らず、後で困る)
- 理由を言わず、ぶっきらぼうに断る: 「すみません、無理です。」 (相手は理由が分からず不満を持つ可能性がある)
- 感情的に、あるいは被害者意識で伝える: 「もう本当に忙しくて、これ以上は無理です!」「いつも私ばっかり…」 (相手は気分を害し、協力を得にくい)
アサーティブな伝え方(OK例)
現在の状況を正直に伝えつつ、感謝を示し、代替案や解決策を一緒に検討する姿勢を示すことが重要です。
- 感謝を示す: 依頼してくれたことへの感謝を伝えます。
- 現在の状況を具体的に伝える: 現在抱えている業務量や状況を客観的に伝えます。感情的にならず、事実に基づいた情報を共有します。
- 懸念事項を伝える: 新たな依頼を引き受けることによって発生しうる懸念(例: 納期遅延、品質低下など)を正直に伝えます。
- 代替案を提案するか、相談を持ちかける: 新たな依頼を断るだけでなく、例えば「〇〇の納期を調整する」「△△さんに手伝いを依頼する」「優先順位について相談する」といった代替案を提案したり、一緒に解決策を考える姿勢を示します。
会話例:
(同僚から「この資料作成、今日中に手伝ってくれる?」と依頼された場面)
「ご相談ありがとうございます。資料作成ですね。 (感謝と状況説明)大変申し訳ないのですが、現在〇〇のタスクを抱えており、今日の終業時間までに完了させる必要がある状況です。 (懸念事項)そのため、すぐに資料作成に取り掛かることが難しく、今日中にサポートするのは難しい見込みです。 (代替案・相談)もし、期日に猶予があるようでしたら、明日の午前中でしたら対応可能ですがいかがでしょうか。あるいは、もしお急ぎでしたら、他の方に相談されるか、このタスクをいくつかの部分に分けて、私が担当できる部分があるか検討することもできます。どのように進めるのがよろしいでしょうか。」
この例では、ただ断るのではなく、感謝を示し、自分の状況を客観的に説明し、協力できない理由と懸念を伝えつつ、代替案を提示するか、一緒に解決策を考える姿勢を示しています。
事例2:進行中の業務が予期せず遅れそうな時
担当している業務が、想定外のトラブル発生や他の業務との兼ね合いで、当初の納期に間に合わない可能性が出てきた状況です。
NGな伝え方
- 黙って抱え込み、報告が遅れる: 納期直前、あるいは過ぎてから「すみません、間に合いませんでした」。 (関係者に迷惑がかかり、信頼を損なう可能性がある)
- 問題を具体的に伝えられない: 「ちょっと遅れそうです」「うまくいってません」。 (何が問題で、どのくらい遅れそうか伝わらず、対策が立てられない)
アサーティブな伝え方(OK例)
問題が顕在化する前に早期に報告し、状況を具体的に共有し、必要なサポートや指示を仰ぐことが重要です。
- 早期に報告する: 遅れそうだと分かった時点で、速やかに報告します。
- 状況を具体的に説明する: 何が原因で遅れそうなのか、現在の進捗状況、そしてどのくらいの遅れが見込まれるのかを具体的に伝えます。
- 懸念と影響を伝える: 納期に間に合わないことで発生する可能性のある影響(他の人の業務への影響など)も併せて伝えます。
- 必要な協力や指示を仰ぐ: 遅れを取り戻すために必要なサポート(例: 他の人の手伝い、情報提供)や、今後の進め方について指示を仰ぎます。
会話例:
(上司に報告する場面)
「ご報告がございます。現在進行中の〇〇の件についてです。 (状況説明)△△の工程で予期せぬシステムエラーが発生しており、復旧と検証に時間がかかっています。 (懸念事項)この影響で、当初予定していた〇月〇日の納期に間に合わない可能性が出てきました。現時点では、完了まであと〇日程度かかる見込みです。 (必要な協力・指示)つきましては、納期を〇月〇日まで調整いただくことは可能でしょうか。あるいは、もし納期調整が難しいようでしたら、この作業の一部を他のメンバーに分担していただくなど、ご協力を仰ぐことはできますでしょうか。今後の進め方について、ご指示をいただけますと幸いです。」
早期に、具体的かつ落ち着いて状況を伝えることで、関係者は速やかに対応策を検討することができます。
事例3:複数のタスクがあり、優先順位が分からない時
複数の業務を抱えており、どれから手をつけるべきか、あるいはどれが最も重要なのか判断に迷う状況です。全てを同時に進めようとして、どれも中途半端になってしまうリスクがあります。
NGな伝え方
- 自分で勝手に優先順位を決めて進める: 後から「あの業務の方が優先度が高かったのに」と言われる可能性がある。
- 誰にも相談せず、パニックになってしまう: 業務効率が著しく低下する。
アサーティブな伝え方(OK例)
抱えているタスクを整理し、それを共有した上で、優先順位について確認や相談を行います。
- 抱えているタスクをリストアップする: 現在担当している主な業務を整理します。
- 状況を共有する: リストアップしたタスクを共有し、それぞれの進捗状況や懸念を簡単に伝えます。
- 優先順位の確認/相談をする: これらのタスクの中で、どれを優先すべきか、あるいはどのように進めるのが最適かについて、上司や関係者に相談します。
会話例:
(上司に相談する場面)
「現在、いくつかの業務を並行して進めておりますので、優先順位についてご相談させてください。 (状況共有)具体的には、〇〇の資料作成(納期△月△日)、□□のデータ分析(依頼日〇月〇日)、そして新しい案件であるXXの準備といったタスクを抱えております。 (懸念事項)どれも重要な業務と感じておりますが、一人で全てを同時に高い質で進めることに難しさを感じております。 (優先順位の相談)つきましては、これらの業務の中で、最も優先して取り組むべきはどれでしょうか。あるいは、何か特定のタスクについて、納期や重要度に関してご指示やアドバイスをいただけますでしょうか。」
このように、現在の状況を整理して共有し、判断に迷っている点について具体的に相談することで、明確な指示や協力を得やすくなります。
まとめ
忙しい時や抱え込みそうな時に、自分の状況を正直に伝えるアサーションは、自身の心身の健康を守るだけでなく、業務の円滑な進行やチーム全体の効率化にも貢献します。
単に「無理です」「できません」と拒否するのではなく、現在の状況を具体的に説明し、なぜ難しいのかという理由(懸念事項)を伝え、可能な代替案を提案したり、解決策について相談したりする姿勢が、建設的なコミュニケーションにつながります。
最初は難しく感じるかもしれませんが、ご紹介した会話例を参考に、まずは小さなことから試してみてはいかがでしょうか。自身の状況を適切に伝えることは、より健康的で生産的な働き方への第一歩となります。