自分の状況や限界を正直に伝えるアサーション：抱え込まずに周囲と調整する会話例
抱え込みすぎてしまったり、無理な依頼を断れなかったりして、一人で悩んでしまうことはありませんか。特に責任感が強い方や、周りに迷惑をかけたくないと感じる方は、自分の状況や限界を周囲に伝えることに抵抗を感じがちかもしれません。
しかし、自分の状況や限界を正直に伝えることは、アサーションの重要な側面の一つです。これにより、不必要なプレッシャーから解放され、周囲との関係性をより建設的に保つことができます。この記事では、自分の状況や限界を伝えるアサーションについて、具体的な会話例を交えて解説します。
自分の状況・限界を伝えるアサーションとは
自分の状況や限界を伝えるアサーションは、「今、自分がどのような状態であるか」「何ができて、何ができないか」「何に困っているか」を、相手を尊重しつつ、自分自身のことも尊重して正直に伝えるコミュニケーションです。
これは単に「できません」と断るのとは異なります。自分の現状を客観的に伝え、必要に応じて代替案を提示したり、周囲に協力を仰いだりしながら、共に問題を解決していく姿勢を示すことが重要です。
このアサーションを身につけることで、過度な業務を抱え込まずに済んだり、予期せぬトラブル発生時にも一人でパニックにならずに済んだりするなど、職場だけでなく日常の様々な場面で役立ちます。
場面別：自分の状況や限界を伝えるアサーションの会話例
ここでは、具体的な場面を想定し、自分の状況や限界をアサーティブに伝える会話例をご紹介します。
場面1：既に多くの業務を抱えている時に、新しい依頼が来た場合（職場）
あなたは現在、複数の締め切りを抱えており、これ以上新しいタスクを引き受ける余裕がありません。そこに、別の部署から比較的緊急度の高い依頼が来ました。
NG例：曖昧に引き受けてしまう
「あ、はい、大丈夫です。やっておきます。」 → 自分の状況を伝えずに引き受けてしまい、結果的に締め切りに間に合わなかったり、品質が低下したりするリスクがあります。
OK例：状況を伝え、相談・調整する
相手：「〇〇さん、この件なんだけど、今日中に対応してもらえるかな？」
あなた： 「お声がけいただき、ありがとうございます。この件について、大変恐縮なのですが、現在△△と□□の対応で手一杯になっておりまして、今日の対応が難しい状況です。」 （まず感謝を伝え、現在の具体的な状況を伝えます。）
相手：「そうなんだ。でも、急ぎで困っているんだよ。」
あなた： 「承知いたしました。差し支えなければ、依頼内容について少し詳細を教えていただけますでしょうか。内容によっては、短時間で対応できる部分があるかもしれませんし、対応可能な範囲であれば担当させていただきたいと考えております。」 （依頼内容を理解しようとする姿勢と、協力したい気持ちを示します。）
相手：「〇〇のデータ集計と、その分析までお願いしたいんだけど。」
あなた： 「データ集計であれば、現時点では手が回らない状況ですが、もしよろしければ、明日の午前中までであれば対応できる見込みです。分析まで含めますと、明日の終業時間までかかる可能性が高いです。今日の対応が必要でしたら、大変申し訳ございませんが、他のメンバーにご相談いただくか、△△か□□の業務の期日調整について上司に相談させていただけないでしょうか。」 （可能な範囲と不可能な範囲、代替案や解決策を具体的に提示し、共に解決策を模索します。）
この例では、ただ断るのではなく、自分の状況を具体的に説明し、可能な対応範囲を提示し、代替案や関係部署との調整を提案しています。これにより、相手はあなたの状況を理解しやすくなり、別の解決策を検討できるようになります。
場面2：スキルや知識が不足している業務を依頼された場合（職場）
あなたは経験のない分野の業務を任されそうになっています。挑戦したい気持ちはあるものの、現在のスキルレベルでは一人で完遂するのが難しいと感じています。
NG例：分かったふりをして後で詰まる
「はい、承知しました。やってみます。」 → 知識がないまま進めてしまい、間違った成果物を出してしまったり、後から質問する際に状況を説明しづらくなったりします。
OK例：不足している点を伝え、サポートを求める
上司：「〇〇さんには、来月から新プロジェクトのこの部分を担当してもらおうと思うんだ。」
あなた： 「ありがとうございます。新しい挑戦の機会をいただけて、大変光栄です。プロジェクトに貢献できるよう精一杯努めます。一点、ご相談させていただけますでしょうか。」 （感謝と意欲を示し、相談があることを伝えます。）
上司：「どうした？」
あなた： 「このプロジェクトで求められる△△の技術や、□□の知識について、私自身、これまでの実務経験がまだ少なく、独力で完璧に対応できるか少々不安に感じております。」 （正直にスキルや知識の現状を伝えます。これはできない理由ではなく、現在の状況説明です。）
上司：「なるほど。どのあたりが具体的に不安かな？」
あなた： 「特に、〇〇のツールを使ったデータ分析の部分です。もし可能であれば、参考になる資料や、この分野に詳しい方をご紹介いただくことはできますでしょうか。事前に勉強する時間をいただけると大変助かります。」 （具体的に何が不足しているかを伝え、必要なサポートを具体的に依頼します。学習意欲も示します。）
このように、できないとはっきり断るのではなく、「現状ではこの点が不安だが、学ぶ意欲はあるのでサポートが欲しい」という形で伝えることで、相手はサポート体制を検討できますし、あなた自身の成長にも繋がります。
場面3：体調が優れない時やプライベートの事情で対応が難しい場合（職場・日常）
急な体調不良や、どうしても外せないプライベートの予定がある日に、仕事や人からの依頼に対応するのが難しい状況です。
NG例：無理をして悪化させる／曖昧にごまかす
「大丈夫です。」と言って無理をして体調を悪化させる。 「ちょっと用事があって...」と曖昧にごまかし、不誠実な印象を与える。
OK例：状況を簡潔に伝え、リスケジュールなどを提案する
同僚：「〇〇さん、今日のランチの後、この資料作成手伝ってくれない？」
あなた： 「お声がけありがとう。ぜひ協力したい気持ちはあるんだけど、実は少し体調が優れなくて、今日は休憩に時間を充てたいと考えています。」 （感謝や協力したい気持ちを示しつつ、体調が悪いという状況を簡潔に伝えます。具体的な症状などを詳しく話す必要はありません。）
同僚：「そうなんだ。大丈夫？無理しないでね。」
あなた： 「ありがとう。明日の午前中には回復していると思うので、もしそれまでで間に合うようであれば、明日改めて声をかけてもらうことはできますでしょうか？」 （回復の見込みを伝え、可能なタイミングで協力を提案します。）
友人：「今週末、みんなでドライブに行くんだけど、来れない？」
あなた： 「誘ってくれてありがとう、すごく楽しそうだね！ただ、実は今週末は先約があって、残念ながら参加できないんだ。」 （誘ってくれたことへの感謝と、楽しそうだと感じている気持ちを伝えます。断りの理由として「先約がある」など、事実を簡潔に伝えます。具体的な内容は伏せても構いません。）
友人：「そっか、残念。また誘うね。」
あなた： 「うん、ぜひ！また次の機会にはぜひ参加したいな。」 （参加したい気持ちを改めて伝え、今後の関係に繋げます。）
体調やプライベートな事情については、職場であっても必要以上に詳細を説明する必要はありません。「体調が優れない」「先約がある」など、事実を簡潔に伝えることで十分です。重要なのは、正直に「今の自分には対応が難しい」という状況を伝えることです。
状況・限界を伝えるアサーションを実践するポイント
- 自分の状況を客観的に認識する: まず、自分自身が今どのような状況で、何ができて何ができないのかを冷静に把握することが第一歩です。
- 「Iメッセージ」で伝える: 「〜は難しい状況です」「〜に不安を感じています」「〜したいと考えています」のように、「私」を主語にした表現を使うことで、相手を非難することなく自分の状況や気持ちを伝えることができます。
- 理由を具体的に、かつ簡潔に伝える: なぜ対応が難しいのか、その理由を具体的に伝えますが、言い訳がましくならないよう簡潔にまとめます。必要以上に謝罪する必要はありません。
- 代替案や相談を提案する: 対応できない部分があるとしても、「これならできる」「こういう方法なら可能か」「一緒に解決策を考えたい」という姿勢を示すことで、相手との協力関係を維持できます。
- 感情的にならない: 難しい状況を伝える時こそ、落ち着いて冷静なトーンで話すことが、建設的なコミュニケーションに繋がります。
まとめ
自分の状況や限界を正直に伝えるアサーションは、抱え込みを防ぎ、健全な人間関係を築くために不可欠なスキルです。完璧にこなす必要はありません。まずは、この記事でご紹介した会話例を参考に、小さな一歩から試してみてはいかがでしょうか。自分の状況を適切に伝えることで、あなた自身の負担が減り、周囲との信頼関係も深まるはずです。