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仕事を抱え込まないための職場アサーション:断り方の具体例と会話例

Tags: アサーション, 職場, 断り方, コミュニケーション, 人間関係

はじめに:なぜ職場で「断る」ことが難しいのか

職場で上司や同僚から頼まれごとをされた際、「断りきれずについ引き受けてしまう」「波風を立てたくない」と感じる方は少なくありません。特に、自分のキャパシティを超えてしまったり、本来の業務に支障が出たりする場合でも、断ることにためらいを感じることがあるでしょう。

しかし、無理をして依頼を引き受け続けることは、自身の負担を増やすだけでなく、業務効率の低下やストレスの原因にもなりかねません。健全な働き方を維持するためには、適切に依頼を断るスキル、つまり「アサーション」が役立ちます。

アサーションとは、相手を尊重しつつ、自分の意見や要求、気持ちを正直かつ適切に表現するコミュニケーション技法です。単に「NO」と言うのではなく、相手との良好な関係を維持しながら、自分の状況や限界を伝えることに重点を置きます。

この記事では、職場で頼まれごとを上手に断るためのアサーションの基本的な考え方と、具体的な会話例をご紹介します。

アサーションで断るための基本原則

アサーションを用いて依頼を断る際には、いくつかの基本的な原則があります。これらを意識することで、相手に不快感を与えることなく、自分の意思を明確に伝えることができます。

  1. 感謝を伝える: まずは依頼してくれたことに対して感謝の意を示します。「お声がけありがとうございます」「頼りにしていただけて嬉しいです」といった一言を添えると、相手も悪い気はしません。
  2. できない理由を簡潔に伝える: なぜ依頼を受けることが難しいのか、その理由を正直かつ具体的に伝えます。ただし、言い訳がましくなったり、長々と説明したりする必要はありません。現在の状況(他の業務で手一杯であるなど)を事実として述べることが重要です。
  3. 代替案を提示する(可能であれば): もし完全に依頼を断るのではなく、一部なら可能である、あるいは別の方法なら協力できるという場合は、代替案を提示します。「〇〇までなら可能です」「△△さんなら対応できるかもしれません」「来週であればお引き受けできますが、いかがでしょうか」のように提案することで、協力の姿勢を示しつつ、自分の限界も伝えることができます。
  4. 断る意思を明確にする: 曖昧な表現は避け、「難しいです」「お引き受けできません」と明確に伝えます。ただし、冷たい印象にならないよう、丁寧な言葉遣いを心がけます。
  5. 不必要な謝罪は避ける: 断ること自体を過度に謝罪する必要はありません。「申し訳ありません」は丁寧な表現ですが、「私のせいでご迷惑をおかけして」のように、自分に非がない状況で責任を負うような言い方は避けた方が良いでしょう。

これらの原則を踏まえ、具体的な会話例を見ていきましょう。

職場シーン別の断り方アサーション会話例

シーン1:他の業務で手一杯な時の依頼

現在抱えている業務が多く、これ以上引き受けると他のタスクに支障が出る、あるいは納期に間に合わなくなる可能性がある状況です。

NG例: 上司:「山田さん、この資料作成お願いできるかな。明日までなんだ。」 自分:「えーと、今ちょっと立て込んでまして...。まあ、なんとかやってみます。」 (結局、自分のタスクが遅延し、残業する羽目に)

OK例(アサーションでの対応):

上司:「山田さん、この資料作成お願いできるかな。明日までなんだ。」
自分:「お声がけいただきありがとうございます。(感謝)
申し訳ありません。現在、〇〇のタスクの納期が本日中で、そちらに集中しており、正直なところ、明日午前中の完成は難しい状況です。(理由を簡潔に伝える)
もし、明日の午後まで納期をずらしていただけるか、あるいは資料作成の一部を△△さんに手伝っていただけるのであれば、お引き受けできるかもしれません。いかがでしょうか。(代替案の提示と確認)
もし難しければ、今回はお役に立てず申し訳ありません。(断る意思を明確に、ただし丁寧さも添える)」

このように、現在の状況を具体的に伝え、できない理由を明確にすることが重要です。可能な範囲で代替案を提案することで、協力的な姿勢も示すことができます。

シーン2:自分の専門外の依頼

自分のスキルや担当範囲とは異なる業務を依頼された状況です。安請け合いすると、かえって迷惑をかけてしまう可能性があります。

NG例: 同僚:「山田さん、経理のシステム詳しいんだっけ?ちょっと教えてくれない?」 自分:「え?いや、あんまり詳しくないけど...。まあ、見てみるよ。」 (結局、相手の期待に応えられず、時間だけが過ぎる)

OK例(アサーションでの対応):

同僚:「山田さん、経理のシステム詳しいんだっけ?ちょっと教えてくれない?」
自分:「お声がけありがとう。(感謝)
申し訳ありません。私は経理システムの専門ではないため、正確な情報をお伝えできるか自信がありません。(理由を簡潔に伝える)
経理システムの詳しい操作については、経理部の佐藤さんに伺うのが確実かと思います。佐藤さんならいつも迅速に対応してくださいますよ。(代替案の提示)」

ここでは、正直に自分のスキルレベルを伝え、代わりに誰に聞けば良いかを具体的に示すことがポイントです。できないことを明確にしつつ、相手が問題解決できるようサポートする姿勢を示すことができます。

シーン3:緊急度や重要度の低い依頼、あるいは非効率な依頼

今すぐやる必要がない、あるいは他の方法の方が効率的であるにも関わらず依頼された状況です。

NG例: 先輩:「山田、このデータ手入力で全部まとめておいてくれる?今日中に。」 自分:「はい、分かりました。」 (膨大なデータを手入力し、深夜までかかる)

OK例(アサーションでの対応):

先輩:「山田、このデータ手入力で全部まとめておいてくれる?今日中に。」
自分:「このデータですね、承知いたしました。(受け止めを示す)
一点よろしいでしょうか。このデータはCSV形式でも出力可能だと思うのですが、もしCSVでいただければ、インポート機能を使って短時間で処理できます。手入力ですと今日中の完了は難しいかもしれません。(事実を述べ、より効率的な方法を提案)
もしCSV出力が難しいようでしたら、手入力で進めますが、念のためご確認いただけますでしょうか。(理由を伝え、相手に判断を委ねる)」

この例では、依頼内容を一度受け止めた上で、より効率的な方法があることを提案しています。単に「できません」と断るのではなく、目的達成のための別の手段を提示することで、建設的なコミュニケーションになります。また、代替案が難しければ依頼を受ける意思があることを伝えることで、柔軟性も示しています。

断る際に意識したいその他のポイント

まとめ

職場で頼まれごとを上手に断ることは、自己管理能力を高め、不必要なストレスを減らすために非常に重要なスキルです。アサーションを活用することで、相手を尊重しつつも、自分の状況やキャパシティを正直に伝え、「できません」を丁寧に、そして建設的に表現することが可能になります。

今回ご紹介した会話例を参考に、まずは身近な状況で小さな依頼からアサーションを試してみてください。回数を重ねるごとに、自信を持って適切に断るスキルが身についていくはずです。無理なく業務を進め、健全な職場環境を築くための一歩として、ぜひアサーションを実践してみてください。