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急な依頼や割り込みに困らない職場アサーション:具体的な断り方・対応会話例

Tags: アサーション, 職場, 断り方, コミュニケーション, 人間関係

はじめに

職場では、予期せぬ急な依頼や、作業中の割り込みに直面することが少なくありません。こうした状況で、どのように対応すれば良いか迷い、つい引き受けてしまって自分のタスクが滞ったり、断りきれずにストレスを抱えたりすることは、多くの方が経験されているのではないでしょうか。

特に、自分の業務に集中したい時や、既に多くのタスクを抱えている時に突然話を振られると、どう反応すれば良いか戸惑うものです。強く断ると人間関係が悪化するのではないか、かといって安易に引き受けると後で自分が苦しくなる、こうした板挟みの中で悩むことは、決して珍しいことではありません。

この記事では、こうした職場で起こりやすい急な依頼や割り込みに対して、アサーションの考え方に基づいた具体的な対応方法と会話例をご紹介します。アサーションを活用することで、相手を尊重しつつ、同時に自分の状況や意思も正直に伝えることが可能になります。これにより、不要なストレスを減らし、自分の業務効率を守りながら、良好な人間関係を維持することを目指します。

急な依頼・割り込みへの対応が難しい背景

日本においては、相手の意向を汲み取り、場の空気を読むことが重視される傾向があります。そのため、「せっかく頼まれたのに断るのは申し訳ない」「忙しいと言ったら角が立つのではないか」といった気持ちから、急な依頼であっても反射的に引き受けてしまったり、曖昧な返事をしてしまったりすることがあります。

しかし、自分のキャパシティを超えて依頼を引き受け続ければ、業務の質が低下したり、長時間労働につながったりするリスクが高まります。また、割り込みによって集中力が途切れることは、作業効率の低下を招きます。

アサーションは、こうした状況で「自分も相手も大切にする」コミュニケーションの技術です。相手の依頼や状況に耳を傾けつつ、同時に自分の今の状況、抱えているタスク、可能な対応策などを正直かつ丁寧に伝えることを目指します。

シーン別:急な依頼・割り込みへのアサーション実践例

ここでは、職場でよくある急な依頼や割り込みのシーンを取り上げ、アサーションを使った具体的な会話例を見ていきます。NG例とOK例、あるいは対応のステップを示すことで、実際のコミュニケーションをイメージしやすくします。

シーン1:集中して作業している最中に急な依頼が来た場合

状況設定:納期が迫っている重要な資料作成に集中している時に、同僚から別の急ぎの作業を頼まれた。

NG例: 同僚「ごめん、今ちょっといいかな? これ今日中にやってほしいんだけど」 あなた「あ、はい...(本当は無理だけど、断りにくい...)」 → 結局引き受けてしまい、自分の作業が進まず残業することになる。

OK例(アサーションを使った対応): アサーションでは、以下のステップで対応することを考えます。

  1. 感謝や配慮を示す: 依頼してくれたことへの感謝や、話を聞く姿勢を示す。
  2. 自分の状況を伝える: 今抱えているタスクや、現在の状況を具体的に伝える。主語を「私」にする(Iメッセージ)。
  3. 代替案を提案するか、依頼内容を明確にする: 今すぐには無理だがいつなら可能か、または依頼内容の一部だけなら可能かなど、建設的な代替案を提案する。あるいは、依頼の目的や緊急度を確認する。

具体的な会話例: 同僚「ごめん、今ちょっといいかな? これ今日中にやってほしいんだけど」 あなた「話しかけてくれてありがとう。(ステップ1:感謝/配慮) 今、〇〇(具体的な作業名)の締め切りが近いので、それに集中して取り組んでいるところなんです。(ステップ2:自分の状況を伝える - Iメッセージ) 内容を少し聞かせてもらってもいいですか? もし可能であれば、(ステップ3:代替案/明確化) 〇時以降であれば対応できますが、いかがでしょうか。あるいは、△△さんなら今手が空いているかもしれません。」

この例では、ただ断るのではなく、自分の状況を説明し、可能な範囲での協力や代替案を示しています。これにより、一方的に依頼を断るのではなく、一緒に解決策を探る姿勢を示すことができます。

シーン2:休憩中や離席中に急な話しかけ・依頼が来た場合

状況設定:昼休憩を取ろうとしている時、またはトイレや給湯室への移動中に、別の部署の人から捕まって長話になりそうな、あるいは急ぎではない依頼を受けそうな雰囲気になった。

NG例: 相手「あ、ちょうど良かった!ちょっと聞きたいことがあるんだけど...」 あなた「あ、はい...(休憩時間なのに...急いでるのに...)」 → 休憩時間が削られたり、移動の目的を果たせなかったりする。

OK例(アサーションを使った対応)

  1. 感謝や配慮を示す: 声をかけてくれたことへの感謝を示す。
  2. 自分の状況を伝える: 今が休憩中であることや、急いでいる理由を簡潔に伝える。
  3. 改めて対応する時間を設ける: 後で改めて話を聞く時間を作ることを提案する。

具体的な会話例: 相手「あ、ちょうど良かった!ちょっと聞きたいことがあるんだけど...」 あなた「声をかけていただいてありがとうございます。(ステップ1:感謝/配慮) 申し訳ありません、今これから休憩に入るところでして。(ステップ2:自分の状況を伝える) もしよろしければ、休憩後に改めてこちらからご連絡差し上げましょうか? あるいは、ご質問内容をチャットで送っていただければ、確認次第返信いたします。(ステップ3:対応時間を設ける/代替策)

この例では、「休憩中なので無理」と一方的に伝えるのではなく、感謝の言葉を添え、代替のコミュニケーション手段や後で対応する意向を示すことで、相手への配慮を示しつつ自分の時間を守っています。

シーン3:内容が曖昧な急な依頼への対応

状況設定:上司や同僚から、「あの件、ちょっと見ておいて」「これ、適当にまとめておいて」といった、内容や期待されるレベルが曖昧な依頼を急に受けた。

NG例: 上司「〇〇さん、この資料、適当にまとめておいてくれる?」 あなた「はい、分かりました。(適当に、ってどこまでやればいいんだろう...?)」 → 何をすれば良いか分からず、手戻りが発生したり、期待と違う成果物になってしまったりする。

OK例(アサーションを使った対応)

  1. 感謝や受容を示す: 依頼内容を聞く姿勢を示す。
  2. 依頼内容を明確にするための質問をする: 何を、なぜ、いつまでに、どのレベルで求められているのかを確認する。

具体的な会話例: 上司「〇〇さん、この資料、適当にまとめておいてくれる?」 あなた「はい、承知いたしました。(ステップ1:感謝/受容) 恐れ入ります、いくつか確認させてください。(ステップ2:明確化の質問) * この資料というのは、具体的にどの資料でしょうか? * 「まとめる」というのは、例えば要点を抜粋する、グラフ化する、他資料と統合するといった、どのレベルの作業を指しますでしょうか? * このまとめ資料は、何のために使用されますか?(目的を確認することで、求められるレベルを推測しやすくなります) * いつまでに必要でしょうか?

こうした質問をすることで、依頼内容が明確になり、無駄な作業や誤解を防ぐことができます。これは断るというよりは、依頼を建設的に進めるためのアサーションと言えます。

アサーション実践のポイント

急な依頼や割り込みに対してアサーションを使う際は、以下の点を意識すると良いでしょう。

まとめ

職場で直面する急な依頼や割り込みへの対応は、多くの人にとって悩みの種となりがちです。しかし、アサーションのスキルを用いることで、「言いたいことが言えない」「断れない」といった状況を改善し、自分の業務を効率的に進めながら、相手との良好な関係性を維持することが可能です。

ここでご紹介した会話例は、あくまで一例です。状況や相手との関係性に合わせて、言葉遣いや伝え方を調整することが大切です。最初から完璧にできなくても、少しずつ意識して実践を重ねることで、急な状況にも落ち着いて、自分も相手も大切にするコミュニケーションが取れるようになるでしょう。

アサーションの実践は、職場でのストレスを軽減し、より快適に働くための一歩となります。ぜひ、日々の業務の中で試してみてください。