上司からの非現実的な期日提示:アサーションで建設的に対応する会話例
非現実的な期日への対応に悩んでいませんか
職場では、上司から業務を依頼される際、期日が設定されることが一般的です。しかし、時にその期日が現在の業務量や内容に照らし合わせると、現実的ではないと感じられることもあるかもしれません。
このような場合、「期日を守れないかもしれない」「品質が低下するのではないか」といった懸念から、抱え込んでしまったり、曖昧な返答をしてしまったりすることがあります。しかし、これは自身の負担を増やすだけでなく、業務の遅延や質の低下に繋がり、結果としてチームや会社に迷惑をかけてしまう可能性も否定できません。
このような状況で役立つのがアサーションです。アサーションは、相手を尊重しつつ、自分の状況や考えを正直かつ適切に伝えるコミュニケーションスキルです。非現実的な期日を提示された際にアサーションを用いることで、ただ「できません」と断るのではなく、建設的な解決策を共に探ることができます。
ここでは、上司からの非現実的な期日提示に対し、アサーションを使ってどのように対応すれば良いのか、具体的な会話例を交えてご紹介します。
非現実的な期日依頼に対応するステップ
非現実的な期日での依頼を受けた際には、以下のステップで対応を検討すると、アサーティブなコミュニケーションに繋がりやすくなります。
-
状況の正確な把握:
- 依頼された業務の内容、必要な時間、期日を正確に確認します。
- 現在抱えている業務とその期日、それぞれの優先度を整理します。
- 依頼された業務を提示された期日までに完了させることが、物理的に難しい理由(業務量過多、必要な情報不足、特定のスキルが必要など)を具体的に特定します。
-
建設的な代替案の検討:
- 提示された期日では難しいとして、いつまでなら完了可能か、現実的な期日を考えます。
- 期日を調整できない場合、業務範囲を限定する、他の業務の優先度を下げる、他のメンバーの協力を得る、といった代替案や、期日内に完了するために必要なサポート(情報提供、判断など)を検討します。
-
上司へのアサーティブな伝達:
- 感謝の意を示しつつ、依頼内容を受け取ったことを伝えます。
- なぜ提示された期日では難しいのか、整理した具体的な状況と理由を客観的に伝えます。
- 検討した代替案や必要なサポートを具体的に提案します。
- 状況の共有と解決策の相談という姿勢で臨みます。
具体的な会話例:非現実的な期日を相談する
ここでは、上司からの非現実的な期日提示に対し、アサーションを用いて建設的に話し合う具体的な会話例をご紹介します。現在の状況を伝え、代替案を提案する流れを意識します。
【状況設定】 上司から、現在の業務状況から見て明らかにタイトな期日で、新規の資料作成を依頼されたケース。
【NG例:曖昧な返答で抱え込む】
- 上司: 田中君、来週水曜の会議で使うこの資料、急ぎで必要になったんだ。悪いけど、来週水曜午前中までに仕上げてくれる?
- あなた: え…水曜午前中ですか…ちょっと、厳しいかもしれません…。
- 上司: そう? いつもより少し早いけど、田中君ならできると思って。頑張ってくれるかな。
- あなた: いえ、あの…他にも業務があるので…。
- 上司: うん、他の業務もあるのは分かってるけど、これは優先度が高いんだ。よろしく頼むよ。
- あなた: …はい…(どうしよう、絶対に間に合わない…)
このNG例では、難しいと感じていることを曖昧に伝え、具体的な理由や代替案を示すことができていません。結果として上司に状況が伝わらず、断りきれずに抱え込んでしまうことになります。
【OK例:アサーションを用いた建設的な相談】
- 上司: 田中君、来週水曜の会議で使うこの資料、急ぎで必要になったんだ。悪いけど、来週水曜午前中までに仕上げてくれる?
- あなた: はい、資料作成のご依頼ありがとうございます。承知いたしました。一つご相談させていただきたいのですが、よろしいでしょうか。
- 上司: うん、何かな。
- あなた: (状況の説明 - Describe) 現在、△△の報告書作成を火曜日を期限に進めており、また〇〇の顧客対応に想定より時間を要しております。資料作成には、内容を確認し丁寧に仕上げるには概算で2日程度かかる見込みです。
- あなた: (気持ち・影響の表現 - Express/Explain) この状況で来週水曜午前中までとなると、△△の報告書に影響が出るか、あるいは資料の品質を十分に確保できない可能性がございます。どちらも重要な業務のため、懸念しております。
- あなた: (代替案の提案/依頼 - Specify) つきましては、もし可能であれば、資料の提出期限を来週木曜日や金曜日に調整いただくことは可能でしょうか。あるいは、現在進めている△△の報告書の優先度を下げて、資料作成に集中させていただくといった調整も可能です。△△の報告書は来週中の提出でも問題ないかと存じます。
- 上司: なるほど、現在の業務状況を詳しく把握していなかった。△△の報告書は来週中であれば問題ないから、そちらの期日を遅らせる形で調整しよう。それなら、この資料を水曜午前中までに仕上げられそうだね。もし、作業を進める上で何か懸念が出てきたり、どうしても難しかったりする場合は、その時点で早めに相談してほしい。
- あなた: ありがとうございます。△△の報告書作成を調整し、資料を水曜午前中までに完了できるよう進めます。何か問題が発生した際は、すぐに状況をご報告、ご相談させていただきます。
このOK例では、まず依頼への感謝と受領の意思を伝えた上で、現在の具体的な状況を説明し、なぜ期日が難しいのかという理由を客観的に伝えています。そして、単に難しいと言うだけでなく、期日調整や業務優先度の変更といった具体的な代替案を提案しています。これにより、上司も状況を理解しやすくなり、共に解決策を検討する建設的な話し合いに繋がります。
伝える際のポイント
- 感情的にならない: 困っている気持ちを伝えつつも、冷静で客観的なトーンを保つことが重要です。「無理です!」と感情的に伝えると、単なる不満や拒否と捉えられかねません。
- 具体的な状況と根拠を示す: なぜその期日が難しいのか、現在の業務量や必要な作業時間など、具体的な事実に基づいて説明します。曖昧な表現では、上司に状況の深刻さが伝わりにくくなります。
- 代替案をセットで提案する: 難しい理由を伝えるだけでなく、「こうすれば可能です」「この期日ならできます」といった代替案や、「〇〇をサポートしていただければ」といった必要なリソース・協力を具体的に提案することで、解決に向けて前向きな姿勢を示すことができます。
- 相談・協力の姿勢で臨む: 上司に判断を仰ぐ、一緒に解決策を考えるというスタンスで臨むことで、一方的な要求ではなく、より良い結果を目指すためのコミュニケーションになります。
まとめ
上司からの非現実的な期日提示にアサーションで対応することは、自身の業務負荷を適切に管理し、業務の質を保つために非常に重要です。曖昧に引き受けたり、抱え込んでしまったりするのではなく、自身の状況を正直に、そして建設的に伝えることで、上司との信頼関係を維持しつつ、より現実的で実行可能な計画を立てることができます。
今回ご紹介した会話例やポイントを参考に、ぜひ実際の職場でアサーションを実践してみてください。自身の状況を適切に伝えることは、あなた自身の働きやすさだけでなく、チーム全体の円滑な業務遂行にも繋がります。