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専門外の業務依頼へのアサーション:正直に伝え、建設的に対応する具体的な会話例

Tags: アサーション, 職場, 会話例, 断り方, 代替案

専門外の業務依頼、どう断る?それとも引き受ける?

職場では、時に自分の専門や経験から外れる業務を依頼されることがあります。このような時、「自分にはできない」「迷惑をかけてしまうかもしれない」と感じつつも、断ることにためらいを感じ、つい引き受けてしまうという経験は珍しくありません。

しかし、専門外の業務を安易に引き受けることは、いくつかの課題を生む可能性があります。業務の質が低下する、完了までに想定外の時間がかかる、結果として他の業務に支障が出る、といったリスクが考えられます。また、引き受けた本人が抱え込み、精神的に追い詰められてしまうこともあります。

こうした状況で役立つのが「アサーション」です。アサーションは、相手を尊重しつつ、自分の意見や気持ちを正直に、かつ率直に伝えるコミュニケーション手法です。専門外の業務依頼に対しても、単に「できません」と断るのではなく、自分の状況を正確に伝え、可能であれば代替案や解決策を提示することで、建設的に対応することができます。

本記事では、専門外の業務依頼を受けた際に、アサーションを用いてどのように対応するか、具体的な会話例を通してご紹介します。

専門外業務依頼にアサーティブに対応するステップ

専門外の業務依頼に対し、アサーティブに対応するためには、以下のステップで考え、伝えることが有効です。

  1. 依頼内容を正確に理解する: 依頼の目的、内容、必要なスキル、期日などを具体的に確認します。
  2. 自分の状況(専門外であること、懸念点)を正直に整理する: 依頼内容に対して、現時点での自分のスキルや知識が不足している点、そのため懸念されること(例: 時間がかかる、品質が保証できない)を明確にします。
  3. 建設的な対応策や代替案を検討する: 単に断るだけでなく、以下のような代替案を検討します。
    • 他の適任者を紹介する
    • 業務に必要なスキルや知識を習得するための時間やリソースを要求する
    • 業務の一部のみを担当する
    • 期日を調整してもらう
    • 他のツールや方法で代替できないか提案する
  4. 相手に伝える: 自分の状況と検討した代替案を、相手を尊重する姿勢で正直に伝えます。

シーン別:専門外の業務依頼に対する具体的な会話例

ここでは、専門外の業務依頼を受けた際の具体的な会話例をいくつかご紹介します。

シーン設定1:上司から専門外のデータ分析を依頼された

あなたは普段、一般的な事務作業や資料作成を担当しています。上司から、これまで扱ったことのない専門的なデータ分析ツールを用いた分析業務を依頼されました。

NG例:

上司:「〇〇さん、来週までにこのデータ分析お願いできる?」 あなた:「え、データ分析ですか...?やったことないんですけど...大丈夫ですかね...。」(自信なさげに) 上司:「まあ、やってみてよ。何とかなるでしょ。」 あなた:「は、はい...。」(不安を抱えつつ引き受ける)

この例では、不安を伝えているものの曖昧であり、上司も状況を正確に把握できないまま依頼が進んでしまいます。結果として、あなたが一人で抱え込み、業務が滞るリスクが高まります。

OK例(アサーティブな対応):

ステップ1:依頼内容を確認・理解 上司:「〇〇さん、来週までにこのデータ分析お願いできる?」 あなた:「はい、データ分析の件ですね。具体的にどのようなデータを使って、どのような結果を出す必要がございますでしょうか?少し詳細を確認させていただけますでしょうか。」 上司:「Aシステムのログデータを使って、ユーザーの利用傾向を分析してほしいんだ。レポート形式でまとめてくれると助かる。」 あなた:「承知いたしました。Aシステムのログデータ分析ですね。ありがとうございます。一つ確認なのですが、この分析には〇〇というツールが必要になりますでしょうか?」

ステップ2:自分の状況(専門外であること、懸念点)を正直に整理し、伝える あなた:「実は、この〇〇ツールを用いたデータ分析は私の専門外の分野でございまして、正直なところ、現時点ではスムーズに進めるスキルがございません。そのため、期日通りに、求められるレベルで業務を遂行できるか懸念がございます。」

ステップ3:建設的な対応策や代替案を検討し、伝える あなた:「もし可能であれば、〇〇ツールの扱いに慣れている△△さんに相談させていただくか、あるいは、この業務に必要な学習時間をいただくことは可能でしょうか。また、もし簡易的な分析でよろしければ、私が扱える□□ツールやExcelで代替できないか確認することも可能ですが、いかがでしょうか。」

ステップ4:相手の反応を聞き、調整する 上司:「なるほど、〇〇ツールの経験はないんだね。△△さんに頼むか、少し時間かけて覚えてもらうか、どうするのが一番良さそうかな?」 あなた:「もし差し支えなければ、一度△△さんに簡単な手順を伺いつつ、私が学習しながら進める、という形で挑戦させていただくことは可能でしょうか?期日に関しても、初挑戦ということもあり、もし可能であれば、〇〇日まで少し猶予をいただくことは可能でしょうか。」 上司:「うん、それなら良いね。期日は〇〇日まで延長しましょう。△△さんにも私から話しておくよ。」 あなた:「ありがとうございます。大変助かります。精一杯努めさせていただきます。」

このように、できないことを正直に伝えつつ、代替案や解決策を具体的に提示することで、単なる断りではなく、チームとしてどうすれば依頼された業務を遂行できるか、という建設的な話し合いに繋げることができます。

シーン設定2:同僚から自分が経験したことのないツールの作業を依頼された

あなたは営業部の事務ですが、隣の部署の同僚から、あなたが使ったことのない専門部署用のシステムでのデータ入力作業を依頼されました。

OK例(別の表現パターン):

同僚:「〇〇さん、ごめん!このシステムのデータ入力、明日までに終わらせたいんだけど、手伝ってくれない?」 あなた:「声をかけてくれてありがとう。どのシステムのデータ入力でしょうか?」 同僚:「△△部で使ってる□□システムなんだけど。」 あなた:「なるほど、□□システムですね。ありがとうございます。実は、私は□□システムを使った経験がなく、操作方法が全く分からない状態です。そのため、お手伝いしたい気持ちはあるのですが、かえってご迷惑をおかけしてしまう可能性が高いかと思います。」 同僚:「そっか、やっぱり部署違うと使わないよね。」 あなた:「はい。もしよろしければ、□□システムの操作に詳しい同じ部署の△△さんに相談してみるのはいかがでしょうか。あるいは、操作方法を教えていただけるのであれば、簡易的なお手伝いなら可能かもしれませんが、その場合、時間がかかってしまうことをご承知おきいただけますでしょうか。」

この例では、感謝の気持ちを伝えつつ、できない理由(システムの使用経験がない)を正直に伝えています。そして、代替案として他の適任者を紹介したり、条件付きでの協力の可能性を示唆したりしています。相手への配慮を示しながら、できないことを明確に伝えるアサーティブな対応です。

専門外依頼へのアサーションを成功させるポイント

専門外の業務依頼に対してアサーションを行う際には、以下の点を意識することが大切です。

まとめ

専門外の業務依頼に対し、断れずに抱え込んでしまうことは、あなた自身の負担を増やし、結果としてチーム全体の効率を下げることにもつながりかねません。

アサーションを用いることで、自分のスキルや状況を正直に伝えつつも、相手を尊重し、業務を前に進めるための建設的な話し合いを行うことができます。今回ご紹介した会話例やステップを参考に、あなたの状況に合わせたアサーティブな対応をぜひ実践してみてください。無用に抱え込まず、あなた自身の可能性を最大限に活かしながら、より良い働き方を実現するための一歩となるはずです。