終業間際や休日出勤依頼への職場アサーション:仕事とプライベートの境界線を守る会話例
終業間際や休日、業務時間外に仕事の依頼を受けることは、多くの人が経験する状況の一つです。すぐに引き受けてしまうと、その後の予定が崩れたり、プライベートな時間が削られたりして、ストレスの原因となることがあります。かといって、どのように断れば角が立たないのか、相手に悪い印象を与えないかなど、難しさを感じる方もいらっしゃるかもしれません。
アサーションは、相手のことも自分のことも尊重しながら、正直に、率直に自分の気持ちや考えを伝えるコミュニケーションスキルです。このスキルを用いることで、仕事とプライベートの境界線を適切に守りながら、周囲との良好な関係を維持することが可能になります。
この記事では、終業間際や休日・時間外の仕事依頼に対して、アサーションをどのように活用できるのか、具体的な会話例を交えてご紹介します。
終業間際の急な依頼への対応
定時が近づき、退勤の準備をしている際に、予期せぬ仕事の依頼を受けることがあります。簡単なように見えても、実際には時間のかかる作業かもしれません。このような時、安易に引き受けてしまうと、残業が常態化したり、後の予定に支障が出たりすることがあります。
NGな対応例
- 「はい、大丈夫です」と内容も確認せずに引き受ける。
- → 実際は時間がかかり、定時に帰れなくなる。
- 「えっと、それは今日中に必要ですか…?」と曖昧に返事をしてしまう。
- → 相手に期待を持たせ、後で断りにくくなる。
アサーションを用いた対応例
アサーションでは、以下のステップで対応することを考えます。
- 状況の確認と共感: 依頼内容を落ち着いて聞き、必要性を理解しようとする姿勢を示します。
- 自分の状況を伝える: 現在の状況(退勤間際であること、その後の予定など)を率直に伝えます。
- 依頼の難しさや所要時間への言及: 依頼内容に対し、今日中に対応するのが難しい理由(時間、他の作業との兼ね合いなど)を具体的に伝えます。
- 代替案の提案: 今日中の対応が難しければ、いつなら可能か、あるいは他の方法はないかなど、代替案を提案します。
具体的な会話例:
- 上司/同僚: 「Aさん、これお願いできる?今日中に確認してほしいんだ。」
- あなた:
- (ステップ1) 「〇〇の件ですね、承知いたしました。」
- (ステップ2, 3) 「ただ、申し訳ございません。現在時刻が定時まであと〇分となっており、また本日はこの後予定が入っております。この内容をきちんと確認するには、恐らく定時までに完了することが難しいかと存じます。」
- (ステップ4) 「もしよろしければ、明日の始業時間でしたら最優先で取りかかれますが、いかがでしょうか。あるいは、もし本日中にどうしても対応が必要な場合は、他に担当できる方はおられますでしょうか。」
この例では、ただ「できません」と断るのではなく、自分の状況と理由を具体的に伝えつつ、代替案を示すことで、依頼者の意図を尊重しつつ、自分の境界線も守っています。
休日や時間外の連絡・依頼への対応
休日や深夜に仕事関連のメッセージや電話が来ると、つい気になってすぐに確認してしまったり、対応を迫られたりすることがあります。しかし、業務時間外は休息やプライベートの時間として確保することが重要です。
NGな対応例
- 休日でも仕事の連絡が来たらすぐに返信・対応する。
- → 相手に「いつでも対応してくれる人」という印象を与え、時間外の連絡が増える可能性がある。
- 「見ていませんでした」「気づきませんでした」など、嘘をついてしまう。
- → 後々、信頼関係に影響が出る可能性がある。
アサーションを用いた対応例
時間外の連絡に対しては、まずすぐに反応しない、というスタンスを持つことが大切です。そして、業務時間になってから、落ち着いて以下の点を伝えることを考えます。
- 連絡を受けたことの確認: 連絡があったこと自体は認識していることを伝えます。
- 時間外であったことへの言及: 連絡が業務時間外であったため、すぐに確認・対応できなかったことを伝えます。
- 今後の対応: いつ対応できるのか、あるいは対応するための確認事項など、今後の進め方を明確に伝えます。
具体的な会話例(休日明けや次の業務時間になったら):
- 上司/同僚: (休日中にメッセージや電話があった後)「この間の件、どうなった?」
- あなた:
- (ステップ1, 2) 「〇〇さん、先日は休日中にご連絡いただき、ありがとうございました。業務時間外でしたため、すぐに確認できず失礼いたしました。」
- (ステップ3) 「内容を確認いたしました。この件につきましては、本日中に状況をまとめて〇〇時までにご報告(あるいは対応)させていただきます。」
- (あるいは、もしすぐに対応できない場合)「内容を確認いたしました。対応についていくつか確認したい点がございますので、本日〇〇時頃にお時間をいただけますでしょうか。」
緊急性があるか分からない場合は、確認の質問をすることも有効です。
- あなた: 「ご連絡いただきありがとうございます。内容を確認いたしました。こちらは本日中の対応が必要な緊急のものでしょうか。もしそうでないようでしたら、明日の始業時間以降に改めて確認し、対応させていただきます。」
このように、時間外の連絡にはすぐに反応しないルールを自分の中で持ち、業務時間になってから落ち着いて対応することで、無理なく境界線を守ることができます。
「これくらいなら大丈夫だろう」という暗黙の圧力への対応
職場の雰囲気として、終業時間後も多くの人が残っていたり、「簡単な作業だから」「みんなやっているから」といった理由で、定時で帰ることや依頼を断ることが難しいと感じる状況があるかもしれません。このような暗黙の圧力も、アサーションで乗り越えることができます。
NGな対応例
- 特に予定はないが、周囲に合わせて残業する。
- → 疲労が蓄積し、自身の生産性やモチベーションが低下する。
- 不満を感じながらも、断る理由を考えるのが面倒で引き受ける。
- → ストレスを溜め込み、職場の人間関係にもネガティブな感情を持つようになる。
アサーションを用いた対応例
重要なのは、周囲の行動に流されるのではなく、自分自身の状況や予定に基づいて判断し、必要に応じてそれを伝えることです。
- 自分の状況を明確にする: 定時で帰る理由や、その後の予定を自分の中で明確に意識します。
- 必要に応じて伝える: 周囲に無理に説明する必要はありませんが、依頼されたり、帰りにくい雰囲気を感じたりした際には、落ち着いて自身の状況を伝えます。
- 罪悪感を手放す: 定時で帰ることや、業務時間外の依頼を断ることは、正当な権利であることを理解し、過度な罪悪感を持たないようにします。
具体的な会話例:
- 同僚: 「Aさん、もう帰るの?みんな残ってるよ。」
-
あなた: 「はい、本日はこの後別の予定がありますので、これで失礼させていただきます。」
- (補足)理由を詳しく説明する必要はありません。「別の予定」「私用」といった表現で十分です。
-
上司: 「この作業、今日中にできる?」
- あなた: (終業時間間際で対応が難しい場合)「申し訳ございません、この作業を今日中に完了するには、定時をかなり過ぎてしまいそうです。本日はこの後対応できないため、もしよろしければ明日の午前一番で対応させていただいてもよろしいでしょうか。」
まとめ
終業間際や休日・時間外の仕事依頼に対してアサーションを活用することは、仕事とプライベートの健全な境界線を築く上で非常に有効です。これは決してわがままな行動ではなく、自分自身の心身の健康を守り、結果としてより長く、より質の高い仕事をするためにも重要なスキルです。
アサーションは練習によって習得できます。まずは簡単な依頼への対応など、小さなことから意識して実践してみてください。自分の状況を正直に、しかし相手を尊重する姿勢で伝えることで、周囲もあなたの状況を理解しやすくなります。
仕事とプライベートのバランスを大切にすることは、自身の幸福度を高めるだけでなく、結果的に仕事への集中力やパフォーマンス向上にも繋がります。この記事でご紹介した具体的な会話例が、あなたの日常におけるアサーション実践の一助となれば幸いです。