職場で不満をため込まないアサーション:建設的に伝える具体的な会話例
職場で不満をため込まないアサーション:建設的に伝える具体的な会話例
職場で日々の業務に取り組む中で、様々な不満やモヤモヤを感じることは少なくありません。例えば、業務の進め方に対する疑問、同僚や上司の言動への違和感、自分の貢献が正当に評価されていないと感じることなどです。
これらの不満を心の中にため込んでしまうと、ストレスが溜まり、仕事へのモチベーションが低下したり、人間関係がぎくしゃくしたりする原因となります。しかし、「不満を伝えること」自体に抵抗を感じる方も多いのではないでしょうか。「角を立てたくない」「感情的になりそうだ」「どう伝えれば良いかわからない」といった不安から、結局何も言えずに終わってしまうケースです。
そこで役立つのが、アサーションというコミュニケーションスキルです。アサーションは、相手を尊重しつつ、自分の気持ちや考え、要求を正直かつ率直に伝える方法です。このスキルを用いることで、不満を単なる批判や感情的なぶつけ合いに終わらせず、状況を改善するための建設的な一歩に変えることが可能になります。
この記事では、職場で不満を感じた際に、アサーションを活用してそれを建設的に伝えるための具体的な方法と会話例をご紹介します。
なぜ不満をため込まずに伝える必要があるのか
不満をため込むことには、いくつかのデメリットがあります。
- 精神的なストレスの増大: 言いたいことを言えない状況は、心の中に負荷をかけ続けます。
- 問題の放置: 不満の原因となっている問題が解決されないまま放置され、状況が悪化する可能性があります。
- 関係性の悪化: 不満が態度に出てしまったり、突然爆発してしまったりすることで、周囲との関係性が損なわれる恐れがあります。
- パフォーマンスへの影響: ストレスや不満は集中力やモチベーションを低下させ、業務効率にも悪影響を与えかねません。
不満を建設的に伝えるためのアサーションの基本ステップ
アサーションを用いて不満を伝える際は、以下の基本的なステップを意識すると良いでしょう。これはDESC法(Describe, Express, Specify, Consequence)と呼ばれるフレームワークを簡易化したものです。
- 事実を描写する (Describe): 状況や相手の行動について、評価や非難を含まず、客観的な事実を述べます。
- 自分の感情や考えを表現する (Express): その事実に対して自分がどう感じたか、どう考えたかを、「私は〜と感じました」「私は〜と思います」という「私(I)メッセージ」を使って伝えます。
- 具体的な要望や提案を伝える (Specify): 状況を改善するために、相手に具体的にどうしてほしいか、自分はどうしたいかを明確に伝えます。
- 結果やメリットを伝える (Consequence): (必要に応じて)自分の要望が受け入れられた場合、どのような良い結果が期待できるかを伝えます。これは協力を促すのに役立ちます。
このステップを踏むことで、感情的な非難ではなく、問題解決に焦点を当てたコミュニケーションが可能になります。
職場で使える不満を伝えるアサーション会話例
ここでは、いくつかの具体的な状況を想定し、NG例とアサーションを用いたOK例を比較してご紹介します。
例1:非効率な会議への不満
状況: 会議の時間が長く、議題が脱線しがちで、結論が出ないことが多い。これにより自分の業務時間が圧迫されていると感じている。
NG例(感情的・批判的): 「今日の会議も全然終わらないし、話がそれてばかりで時間の無駄でしたよ。いつもこうですよね。」 * (解説)非難や断定的な言葉が多く、相手は反発を感じやすいでしょう。具体的な改善点や要望が伝わりません。
OK例(アサーションを活用): 「〇〇部長、本日の会議について、少しお話しさせていただけますでしょうか。」(相手の許可を得る) 「会議で話が多岐にわたることがあり、終了時間が予定より遅れるケースが見受けられます。」(事実を描写) 「正直申し上げますと、その後の業務の調整に少し苦慮してしまうことがあります。」(自分の状況・感情を表現) 「議題ごとに時間配分を決めたり、目的をより明確にしたりすることで、効率が上がり、皆が集中して臨めるようになるのではないかと感じております。今後、何か改善できる点はございますでしょうか。」(具体的な要望・提案と相談の姿勢) * (解説)客観的な事実から入り、「私は〜」という形で影響を伝えています。改善提案も提示しつつ、相手の意見も求めることで、協力的・建設的な対話を目指しています。
例2:同僚からの手伝い依頼が一方的・急な場合への不満
状況: 同僚から自分の業務状況を考慮せず、急に、かつ頻繁に手伝いを依頼される。自分の業務に支障が出始めている。
NG例(消極的・溜め込み型): 「(内心、嫌だな、自分の仕事があるのに...)はい、いいですよ。」(断れずに引き受けてしまう) * (解説)自分の状況や意思を伝えられず、不満をため込んでしまいます。状況は改善されず、繰り返される可能性が高いです。
OK例(アサーションを活用): 「〇〇さん、お声がけいただきありがとうございます。」(感謝を示す) 「今、△△の業務を抱えておりまして、今日の夕方までには終わらせたいと考えております。」(事実と自分の状況を説明) 「申し訳ありませんが、すぐに対応するのは難しい状況です。」(正直に断る) 「もし明日の午前中まででしたら、お手伝いできる可能性があります。あるいは、他の誰かに相談してみるのはいかがでしょうか。」(代替案の提示や協力姿勢を示す) * (解説)感謝と謝罪を伝えつつ、自分の状況を明確に説明しています。単に断るだけでなく、可能な範囲や代替案を示すことで、関係性を維持しようとする意図が伝わります。
例3:自分の業務範囲外の仕事を頼まれることへの不満
状況: 本来の業務とは異なる、あるいは自分の担当ではない仕事を当然のように依頼されることが多い。
NG例(曖昧・受け身): 「あ、えっと、それは私の担当じゃないような気もしますが...」「ちょっと確認してみます...」(明確に意思表示せず、結局引き受けてしまう) * (解説)曖昧な態度は相手に伝わりにくく、「頼めばやってくれる」と思われてしまいがちです。
OK例(アサーションを活用): 「〇〇さん、この件についてご相談に乗っていただけますでしょうか。」(対話の姿勢を示す) 「ご依頼いただいた△△の件ですが、私の現在の担当業務は□□となっております。」(客観的な事実、自分の役割を説明) 「恐れ入りますが、その業務は私の専門外(あるいは担当外)であると認識しております。」(自分の認識を伝える) 「この業務を遂行するためには、担当の××さんにご確認いただくか、改めて業務分担についてご相談させていただけると助かります。」(具体的な提案・要望) * (解説)自分の担当範囲を明確に伝えつつ、非難ではなく「認識」「助かります」といった表現を用いています。誰に相談すべきか、どう進めるべきかといった具体的な解決策を提示しています。
実践のポイント
不満をアサーションで伝える際は、以下の点を意識してください。
- 準備をする: 自分が何に対して不満を感じているのか、具体的にどうしてほしいのかを整理しておきましょう。
- タイミングを選ぶ: 相手が落ち着いて話を聞ける状況や時間を選びましょう。感情的になっている時は避けるのが賢明です。
- 冷静さを保つ: 声のトーンや表情にも気を配り、落ち着いて話すことを心がけてください。
- 「私(I)メッセージ」を使う: 主語を「あなた」ではなく「私」にすることで、相手を責めるのではなく、自分の気持ちや状況を伝える形になります。
- 完璧を目指さない: 最初から完璧にアサーションを使うのは難しいかもしれません。まずは小さなことから試してみましょう。
まとめ
職場で感じる不満を健全に処理することは、自身の精神的な健康維持だけでなく、より良い職場環境を築くためにも重要です。不満をため込むのではなく、アサーションというスキルを用いて、相手を尊重しながらも自分の気持ちや要望を建設的に伝えていくことで、状況が改善されたり、無用なストレスが軽減されたりすることが期待できます。
ご紹介した会話例が、あなたが職場で不満を感じた際に、どう伝えれば良いかの具体的なイメージを持つ一助となれば幸いです。すぐに完璧にはできなくても、少しずつ実践を重ねることで、きっと自分らしいアサーティブなコミュニケーションを身につけていくことができるでしょう。