職場で協力を依頼するアサーション:相手も受け入れやすい具体的な頼み方と会話例
職場で一人で業務を抱え込み、負担に感じている方は少なくありません。誰かに助けを求めたい、協力を依頼したいと考えても、「迷惑をかけてしまうのではないか」「断られたらどうしよう」といった不安から、なかなか声をかけられないこともあるでしょう。
このような状況において、アサーションのスキルは非常に有効です。アサーションとは、自分も相手も大切にしながら、誠実に自分の考えや気持ち、要望を表現するコミュニケーションの方法です。アサーションを使った依頼は、単に相手に「お願いする」のではなく、状況を正確に伝え、相手の立場も尊重しつつ、協力をお願いするプロセスを含みます。これにより、相手が依頼を受け入れやすくなるだけでなく、自分自身も不必要なストレスを感じにくくなります。
この記事では、職場で協力を依頼する際に役立つアサーションの具体的な頼み方と、様々な状況を想定した会話例をご紹介します。
アサーションを使った依頼の基本的な考え方
アサーションを用いた依頼では、以下の点を意識することが重要です。
- 状況と理由を明確に伝える: なぜ依頼する必要があるのか、現状はどうなっているのかを具体的に説明します。
- 何を依頼したいかを具体的に伝える: 曖昧な表現ではなく、相手に何をしてほしいのかを明確に伝えます。
- 相手の状況に配慮する: 相手が今忙しい状況ではないかなどを考慮し、声かけのタイミングや表現を工夫します。
- 代替案や期日を示す: もし相手にとって難しい場合や、いつまでに必要かなどを伝えることで、相手が対応を検討しやすくなります。
- 感謝の気持ちを伝える: 協力をお願いすることへの感謝と、引き受けてくれたことへの感謝を明確に伝えます。
職場での具体的な依頼シーンと会話例
いくつかの典型的な職場での依頼シーンを取り上げ、具体的な会話の流れを見ていきましょう。
シーン1:業務の分担をお願いしたい(同僚へ)
締切が迫っており、自分一人ではタスクを期日までに終えるのが難しい状況です。同僚に一部の業務を手伝ってもらいたいと考えています。
ポイント: 相手の状況を伺い、自分の状況と依頼内容、必要な期日を具体的に伝えます。相手が断りやすい選択肢も提示します。
自分:「〇〇さん、今少しお時間よろしいでしょうか。」
同僚:「はい、大丈夫ですよ。」
自分:「ありがとうございます。実は、今担当している△△の件で、明日の午後が締切なのですが、少しタスクが立て込んでおりまして。」
自分:「もし可能であれば、〜の資料作成の一部(例:データ入力の部分など、具体的に示す)を手伝っていただけないでしょうか。〇〇さんにデータ入力をお願いできると、私は別の作業に集中できて大変助かります。」
自分:「所要時間は〜分程度かと思います。もし今日難しいようでしたら、明日の午前中でも構いません。ご都合はいかがでしょうか。」
同僚:「なるほど。ええ、その部分でしたら今日の午後から対応できそうです。」
自分:「本当ですか!大変助かります。ありがとうございます。資料はこちらになります。何かご不明な点があれば、いつでもお声がけください。」
同僚:「分かりました。」
NG例: 「〇〇さん、忙しい?ちょっとこれ手伝ってくれない?締切なんだ。」(状況や依頼内容が不明確、一方的) 「すみません、あの、もしよかったらで全然大丈夫なんですけど、この作業、少しだけお願いできますか...?無理だったら全然大丈夫なので...」(申し訳なさすぎて相手に意図が伝わりにくい)
シーン2:他部署の人に情報提供をお願いしたい
新しいプロジェクトを進めるにあたり、過去の類似プロジェクトに関する情報やデータが必要となりました。その情報は他部署の〇〇さんが持っています。
ポイント: 丁寧な言葉遣いを心がけ、依頼の背景(なぜ情報が必要なのか)と具体的な依頼内容を明確に伝えます。相手の部署の協力への感謝も示します。
自分:「〇〇さん、突然のご連絡失礼いたします。△△部の[あなたの名前]です。」
自分:「実は、今度始まる新しい□□プロジェクトの件で、〇〇さんの部署が以前担当されていた〜に関するデータや情報をいくつか拝見させて頂けないかと思い、ご連絡いたしました。」
自分:「そのデータは、今回のプロジェクトを進める上で非常に参考になり、スムーズな立ち上げに繋がるかと考えております。」
自分:「お忙しいところ大変恐縮ですが、もし差し支えなければ、関連する資料などを共有いただくことは可能でしょうか。可能な範囲で構いませんし、お手すきの際にご対応いただけますと幸いです。」
自分:「もし難しい場合や、何か別の方法がございましたら、ご教示いただけますでしょうか。お手数をおかけいたしますが、何卒よろしくお願いいたします。」
〇〇さん:「ご連絡ありがとうございます。ええ、□□プロジェクトの件ですね。関連資料、いくつかあるので確認してみます。準備でき次第、共有させていただきますね。」
自分:「〇〇さん、ありがとうございます。大変助かります。お忙しい中、お手数をおかけして申し訳ございません。よろしくお願いいたします。」
シーン3:上司に承認や判断をお願いしたい
作成した資料について上司の承認が必要な状況、あるいは判断に迷う状況で指示を仰ぎたいと考えています。
ポイント: 依頼内容を簡潔に伝え、状況の概要と必要なアクション(承認、判断など)を明確に伝えます。必要な情報(資料、期日など)を提示します。
自分:「〇〇部長、今よろしいでしょうか。」
上司:「はい、どうぞ。」
自分:「ありがとうございます。△△の件で、ご承認のお願いがございます。先ほど〇〇部長にご確認いただいた資料につきまして、最終版を作成いたしました。」
自分:「内容をご確認いただき、よろしければご承認いただけますでしょうか。明日の朝までに提出が必要なため、本日中にいただけますと幸いです。」
自分:「資料はこちらでございます。お忙しいところ恐縮ですが、ご確認よろしくお願いいたします。」
上司:「分かりました。では、後ほど確認しておきましょう。」
自分:「ありがとうございます。よろしくお願いいたします。」
判断をお願いする場合の例:
自分:「〇〇部長、△△の件でご相談がございます。」
上司:「何ですか?」
自分:「はい。現在進めている〜の作業で、A案とB案のどちらで進めるか判断に迷っております。A案は〜というメリットがありますが、〜という懸念点がございます。一方、B案は〜ですが、〜となります。」
自分:「それぞれの詳細をまとめた資料がございますので、後ほどご確認いただけますでしょうか。〇〇部長のご意見を伺い、どちらの方向性で進めるべきかご指示いただけますと幸いです。」
自分:「明日の朝までに方向性を確定させたいと考えておりますので、本日中にご判断いただけますと大変助かります。お忙しいところ恐縮ですが、よろしくお願いいたします。」
依頼を成功させるための追加のヒント
- 日頃からの関係構築: 普段から良好なコミュニケーションを取れていると、いざという時の依頼もしやすくなります。
- 感謝の気持ちを具体的に伝える: 依頼を聞き入れてくれたことに対して、「〇〇していただけて、〜という点で本当に助かりました」のように、具体的にどのように助かったのかを伝えると、感謝の気持ちがより伝わりやすくなります。
- 断られても大丈夫: 相手にも都合があります。アサーションは相手の権利も尊重するため、断られたとしても、それは相手が自分自身を大切にした結果と捉え、感情的にならずに「承知いたしました。別の方法を考えます」のように落ち着いて対応することが重要です。
- 代替案を用意しておく: 依頼が難しい場合に備えて、他の人に頼む、期日を調整する、自分で別の方法を探すなど、いくつかの選択肢を考えておくと、より柔軟に対応できます。
まとめ
職場で一人で抱え込まず、周囲と協力して業務を進めることは、自分自身の負担を軽減し、より良い成果を出すためにも重要です。アサーションを使った依頼は、自分のニーズを誠実に伝えつつ、相手への配慮も忘れないコミュニケーション方法です。
今日ご紹介した会話例を参考に、まずは身近な同僚への小さな依頼から試してみてはいかがでしょうか。適切に協力を依頼できるようになることで、職場の人間関係はより円滑になり、仕事も進めやすくなることでしょう。