職場でモヤモヤする言動へのアサーション:自分の気持ちを伝える会話例
職場では、ハラスメントとまではいかなくても、個人的なことを詮索されたり、余計な一言を言われたり、軽く扱われているように感じたりと、何となくモヤモヤしたり、不快に感じたりする言動に遭遇することがあります。このような時、どう反応すれば良いのか迷い、つい何も言えずに我慢してしまう方も多いのではないでしょうか。
しかし、何も言わずにいると、相手の言動がエスカレートしたり、自分の中に不満やストレスが溜まってしまったりすることがあります。このような状況で役立つのがアサーションです。アサーションとは、相手を尊重しつつ、自分の気持ちや考え、要望を率直に、誠実に伝えるコミュニケーションスキルのことです。
ここでは、職場で感じる「モヤモヤする言動」に対して、アサーションを使って適切に対応するための具体的な会話例をご紹介します。
なぜ「モヤモヤする言動」にアサーションが有効なのか
アサーションを用いることで、感情的に反発したり、一方的に我慢したりするのではなく、冷静に自分の感じていることや相手に求める行動を伝えることができます。これにより、無用な衝突を避けながら、自分の心を守り、相手との健全な関係を築く可能性が高まります。
ポイントは、相手の人格を否定するのではなく、あくまで「その言動が自分にどう影響しているか」を具体的に伝えることです。
アサーションで伝える要素
「モヤモヤする言動」に対するアサーションでは、主に以下の要素を組み合わせて伝えます。
- 状況/事実 (Describe): 具体的にどのような言動があったか、事実を客観的に伝えます。「あなたが〇〇と言った時」「〇〇の件について話していた時」など。
- 気持ち/感情 (Express): その言動に対して自分がどのように感じたか、率直に伝えます。「私は少し困りました」「寂しい気持ちになりました」「不快に感じました」など。
- 要望/提案 (Specify): 今後どうしてほしいか、具体的な要望や提案を伝えます。「今後は〇〇していただけると助かります」「次回からは〇〇にしていただけますか」など。
- 結果 (Consequences): (必要に応じて)要望を受け入れてもらえた場合、あるいはそうでなかった場合の結果を伝えます。(このタイプの言動への対応では、結果を伝える場面は少ないかもしれません。)
これらの要素を意識して、会話を組み立てます。(これはDESC法と呼ばれるアサーションの手法ですが、専門用語として覚える必要はありません。話す内容の要素として参考にしてください。)
具体的な会話例
ここでは、職場でありうる「モヤモヤする言動」のシチュエーションをいくつか想定し、アサーションを用いた会話例をご紹介します。
例1:プライベートな質問がしつこい・立ち入った内容に及ぶ場合
相手:〇〇さん(あなた)、まだ結婚しないの?いい人いないの? あなた(内心モヤモヤ):あんまり答えたくないんだけどな…どう言えば角が立たないかな。
NG例: * 曖昧に笑ってごまかす:「あはは、どうでしょうね〜」 * (相手は察してくれず、さらに質問してくる可能性があります) * 正直に答えてしまう * (本来話したくないことを話すことになり、後で後悔したり、さらに立ち入った質問をされたりする可能性があります)
OK例(アサーション): 「〇〇さん、結婚の件についてお尋ねですが、正直なところ、プライベートなことですので、あまりお話ししたくないのです。 ご理解いただけますでしょうか。」
- 事実+気持ち: プライベートなことなので、あまり話したくないという気持ちを伝えています。
- 要望: 「ご理解いただけますでしょうか」という形で、それ以上聞かないでほしいという暗黙の要望を含んでいます。
もう少し直接的に伝える場合: 「〇〇さん、ご心配いただきありがとうございます。ただ、個人のことについては、職場ではお話ししないようにしています。 今後、この件についてはご質問いただかないようお願いできますか。」
- 事実+気持ち: 職場では個人のことを話さないという方針を示し、それ以上の質問には応じない意思を伝えています。
- 要望: 明確に質問しないでほしいと伝えています。
例2:個人的な容姿や服装について、不必要に言及されたりからかわれたりする場合
相手:あれ、今日〇〇さん(あなた)なんかイメージ違うね。〇〇(特定の体の部位や服装の系統など)が気になるな〜。 あなた(内心モヤモヤ):別に放っておいてほしいんだけど…嫌だな。
NG例: * 照れて笑ってごまかす * 冗談として受け流すふりをする * (相手は「平気なんだ」と思い、今後も繰り返す可能性があります) * 感情的に反論する:「何ですかそれ!失礼ですよ!」 * (相手も感情的になり、関係が悪化する可能性があります)
OK例(アサーション): 「〇〇さん、私の容姿や服装についておっしゃってくださっていますが、正直なところ、そういった個人的なことについて職場であれこれ言われるのは、あまり心地よくありません。 ですから、今後、私の外見について言及されるのは控えていただけますでしょうか。」
- 事実: 自分の容姿や服装について言及されたという事実を伝えています。
- 気持ち: それが心地よくないという気持ちを伝えています。
- 要望: 今後、外見への言及を控えてほしいと具体的に伝えています。
例3:成果を貶められたり、軽視されたりするような発言があった場合
(あなたが担当した業務について) 相手:ああ、この件ね。まあ、〇〇さん(あなた)でもこれくらいはやれるよね。大したことないよ。 あなた(内心モヤモヤ):一生懸命やったのに…そういう言い方ないだろう。
NG例: * 黙って我慢する * 「そんなことないですよ」と謙遜しすぎる * (相手は自分の評価が正しいと思い込みます) * 感情的に反論する:「ひどいです!一生懸命やったのに!」 * (感情的になると、正当な評価を求める意図が伝わりにくくなります)
OK例(アサーション): 「〇〇さん、私のこの業務の成果についてご評価いただいている点はありがとうございます。ただ、『大したことない』という言い方をされると、私は自分の努力や貢献が軽視されているように感じてしまい、少し残念な気持ちになります。 今後のモチベーションにも関わりますので、誠実に業務に取り組んだ結果については、適切な言葉でフィードバックをいただけると嬉しいです。」
- 事実: 「大したことない」という言い方について言及しています。
- 気持ち: 努力や貢献が軽視されているように感じて残念だという気持ちを伝えています。
- 要望: 適切な言葉でフィードバックがほしいという要望を伝えています。
アサーションを実践する際の注意点
- 冷静さを保つ: 感情的にならず、落ち着いて話すことが重要です。
- 「I(アイ)メッセージ」を使う: 「あなたは〇〇だ」と相手を主語にするのではなく、「私は〜と感じる」「私は〜してほしい」のように自分を主語にして話すと、相手は責められていると感じにくくなります。
- 繰り返し練習する: 最初は難しく感じるかもしれませんが、小さなことから試したり、頭の中でリハーサルしたりすることで慣れていきます。
- 状況を選ぶ: 相手との関係性や職場の文化によっては、アサーションが難しい場合もあります。全てに完璧に対応しようとせず、状況に応じて流すことも時には必要かもしれません。しかし、どうしても譲れない点や、自分の心が傷つく状況では、アサーションを試みる価値は大きいでしょう。
まとめ
職場で感じる「モヤモヤする言動」に適切に対応することは、自分自身の心の健康を保ち、より健全な人間関係を築くために重要です。アサーションは、感情に流されず、相手を尊重しながらも自分の気持ちや要望を誠実に伝えるための有効なツールとなります。
今回ご紹介した会話例を参考に、まずは小さなモヤモヤから、アサーションを実践してみてはいかがでしょうか。自分の気持ちを適切に伝えることで、職場のコミュニケーションが少しずつ改善される可能性があります。