職場で信頼されるアサーション:相手の良い点や貢献を具体的に伝える会話例
職場の人間関係は、仕事の効率や自身のモチベーションにも大きく影響します。業務における報告や相談、あるいは断り方といったコミュニケーションに難しさを感じている方もいらっしゃるかもしれません。アサーションは、そうした状況で自分の考えや感情を適切に伝えるための有効な手段です。
アサーションは、自分の権利や意見を主張することだと捉えられがちですが、相手への敬意を払いながら誠実にコミュニケーションを図る全ての行為を指します。中には、相手の良い点や貢献を具体的に伝えることも含まれます。これは「ポジティブ・アサーション」とも呼ばれ、職場の信頼関係を築き、より良好な協力体制を構築するために非常に役立ちます。
ここでは、職場で相手の良い点や貢献を具体的に伝えるアサーションの実践方法を、具体的な会話例を交えてご紹介します。
ポジティブ・アサーションが職場にもたらす効果
相手の貢献や良い点を具体的に伝えることは、単なるお世辞とは異なります。アサーションとしてのポジティブなフィードバックは、以下の効果をもたらします。
- 信頼関係の強化: 相手は「自分を見てくれている」「正当に評価されている」と感じ、あなたへの信頼を深めます。
- モチベーション向上: 貢献を認められた相手は、さらなる努力への意欲が高まります。
- 協力体制の促進: ポジティブなコミュニケーションが活発になり、互いに助け合う雰囲気が醸成されます。
- 自身のコミュニケーションスキル向上: 相手に良い点を伝える練習は、他のアサーションスキル(依頼や意見表明など)を磨く土台ともなります。
相手の良い点・貢献を伝えるアサーションの具体的な会話例
具体的にどのように伝えれば良いのでしょうか。ポイントは、「何を」「どのように」伝えるかです。
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何を伝えるか:
- 具体的な行動や成果
- その行動がもたらした良い結果や影響(自分やチームへの貢献)
- その行動から感じたあなたの素直な評価や感謝
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どのように伝えるか:
- 誠実に、飾らない言葉で
- 具体的に、曖昧さを避けて
- 適切なタイミングで(できれば速やかに)
- 「私は〜と感じた」「〜という点が素晴らしいと思う」といったI(アイ)メッセージを活用する
それでは、具体的なシーン別に会話例を見ていきましょう。
シーン1:同僚の資料作成能力を評価する
プロジェクトで協力した同僚が作成した資料が非常に分かりやすかった場合。
避けるべき曖昧な伝え方: 「資料ありがとう。助かったよ。」
アサーティブな伝え方: 「〇〇さん、この前のプロジェクトで作成してくださった資料、本当にありがとうございました。特に、複雑なデータを視覚的に分かりやすくまとめていただいたおかげで、関係者への説明がスムーズに進み、大変助かりました。グラフの色使いや配置の工夫が素晴らしかったです。」
- ポイント: 単なる感謝だけでなく、「複雑なデータを視覚的に分かりやすくまとめてくれた」「説明がスムーズに進んだ」といった具体的な行動とその結果、さらに「グラフの色使いや配置」といった具体的な良い点に言及しています。
シーン2:上司の的確なアドバイスに感謝・評価を伝える
難しい課題に直面し、上司からのアドバイスで解決の糸口が見つかった場合。
避けるべき曖昧な伝え方: 「アドバイスありがとうございます。参考にします。」
アサーティブな伝え方: 「〇〇部長、先日の△△の件でご相談させていただいた際、□□について具体的にご教示いただき、誠にありがとうございました。部長のアドバイスのおかげで、それまで気づかなかった視点に立て、課題解決に向けた具体的な一歩を踏み出すことができました。的確なご指示に感謝申し上げます。」
- ポイント: 上司の「どの点」(□□について具体的にご教示)が、「どう役立ったか」(気づかなかった視点、具体的な一歩)を明確に伝えています。役職者に対しても、具体的な貢献を伝えることは敬意を示すことにつながります。
シーン3:後輩の成長や努力を具体的に認める
以前はミスが多かった後輩が、努力の結果、正確な作業ができるようになった場合。
避けるべき曖昧な伝え方: 「最近、ミスが減って良くなったね。」
アサーティブな伝え方: 「〇〇さん、最近の△△の業務、とても正確に進められていますね。特に、提出前のダブルチェックを徹底されている姿を拝見し、素晴らしいと感じています。その丁寧な取り組みのおかげで、全体のチェック工数が削減され、チームとして効率が上がりました。日々の努力の成果だと思います。」
- ポイント: 後輩の「具体的な行動」(ダブルチェックの徹底)と「その結果」(全体のチェック工数削減、チーム効率向上)を結びつけて評価しています。「努力の成果だと思う」と付け加えることで、後輩の頑張りを認める気持ちも伝わります。
シーン4:他部署の協力に感謝・評価を伝える
普段あまり関わりのない他部署の人に、急な依頼にも関わらず丁寧に対応してもらった場合。
避けるべき曖昧な伝え方: 「先日はどうもありがとうございました。」
アサーティブな伝え方: 「〇〇部の△△様、先日は□□に関する情報提供、誠にありがとうございました。本来、ご担当外の業務にも関わらず、迅速かつ丁寧にご対応いただいたおかげで、当部署の業務を滞りなく進めることができました。△△様のご協力に心より感謝いたします。また何かございましたら、ぜひお声がけください。」
- ポイント: 相手の状況(担当外、迅速かつ丁寧)への配慮を示しつつ、「具体的に何がどう役立ったか」を伝えています。今後の協力関係にもつながる一言を添えるのも効果的です。
まとめ
職場におけるアサーションは、自己主張だけでなく、相手の良い点や貢献を具体的に伝える「ポジティブ・アサーション」も非常に重要です。これは、単に相手を褒めるのではなく、相手の行動や成果を正当に評価し、その影響を伝える誠実なコミュニケーションです。
今回ご紹介した会話例のように、具体的な行動、その結果、そしてそれに対するあなたの素直な評価や感謝を伝えることを意識してみてください。最初は少し気恥ずかしいかもしれませんが、これを実践することで、職場の人間関係はより温かく、建設的なものに変化していくはずです。ぜひ、身近な同僚や上司、後輩に対して、今日からポジティブ・アサーションを試してみてください。