職場で指示が曖昧な時のアサーション:確認と質問の具体的な会話例
曖昧な指示はなぜ困るのか:正確な仕事のためのアサーション
職場で上司や同僚から仕事の指示を受けた際、その内容が曖昧で、どう進めれば良いのか判断に迷うことは珍しくありません。期日、範囲、目的、具体的な手順などが不明確な指示は、不安を招くだけでなく、業務の遅延やミス、手戻りの原因となります。
しかし、「確認したいけれど、忙しそうだし聞きづらい」「何度も聞き返すのは失礼かもしれない」「自分で判断して間違えたらどうしよう」といったためらいから、曖昧なまま作業を進めてしまい、結果として問題が発生するという悪循環に陥るケースも少なくありません。
このような状況で役立つのが、アサーションのスキルです。アサーションは、相手を尊重しつつ、自分の気持ちや考え、要望を率直かつ誠実に伝えるコミュニケーション技法です。曖昧な指示を受けた際に、確認や質問を適切に行うことで、指示を明確にし、正確に仕事を進めることができるようになります。
この記事では、職場で曖昧な指示を受けた際にアサーションを活用して、指示内容を明確にするための具体的な確認方法と会話例を紹介します。
曖昧な指示への対応をためらう心理
なぜ、私たちは曖昧な指示に対してすぐに確認や質問をすることが難しいと感じるのでしょうか。そこには、いくつかの心理的なハードルが存在します。
- 相手への遠慮: 上司や先輩が忙しそうに見えるとき、話しかけること自体をためらってしまいます。「こんな簡単なことも分からないのか」と思われたくないという気持ちもあります。
- 失礼になることへの懸念: 指示が理解できなかったことを伝えるのが、相手に対して失礼にあたるのではないかと考えてしまいます。
- 自己評価の低下への不安: 質問することで、自分の能力が低い、理解力がないと評価されるのではないかという恐れを感じることがあります。
- 自分で解決しようとするプレッシャー: まずは自分で調べて解決すべきだ、という考えから、安易に質問することを避けてしまう場合があります。
これらの心理的なハードルを乗り越え、必要な確認を行うために、アサーションの考え方が力を発揮します。自分の仕事の質を高めるため、そしてチーム全体の効率を上げるために、不明確な点をはっきりさせることは、決してネガティブなことではありません。
アサーションで曖昧な指示を明確にするメリット
曖昧な指示に対してアサーションを使って確認・質問することには、以下のようなメリットがあります。
- 業務の正確性向上: 指示内容を正確に理解できるため、誤った方向で作業を進めるリスクが減り、質の高い成果につながります。
- 手戻りや無駄の削減: 作業の途中や完了後に指示との齟齬が発覚し、大幅な手戻りが発生することを防ぎます。結果的に、時間と労力を節約できます。
- 不安やストレスの軽減: 不明確なまま作業を進めることによる「本当にこれで合っているのだろうか」という漠然とした不安が解消され、安心して業務に取り組めます。
- 信頼関係の構築: 適切に確認・質問する姿勢は、責任感を持って仕事に取り組む姿勢を示すことにつながります。これは、上司や同僚からの信頼を得る上でも重要です。また、相手も自分の指示が曖昧だったことに気づき、今後のコミュニケーション改善につながる可能性もあります。
これらのメリットを理解することで、確認や質問を前向きに捉えることができるようになります。
曖昧な指示へのアサーション:具体的な会話例
ここでは、職場で曖昧な指示を受けた際の具体的なアサーションによる確認・質問の会話例をいくつかご紹介します。相手や状況に合わせて、表現を調整してみてください。
例1:簡単な確認(期日や範囲など)
上司から「あの資料、午前中に目を通しておいて」と指示があったが、今日の午前中なのか、明日以降の午前中なのか不明確な場合。
- NG例: 「分かりました。」(内心、今日のことかな…と不安に思いつつそのままにしてしまう)
- OK例(アサーション):
- あなた: 「〇〇部長、先ほどご指示いただいた資料の件で確認させてください。」
- 相手: 「はい、何ですか。」
- あなた: 「午前中に目を通すとのことですが、これは本日の午前中を目標とすればよろしいでしょうか。」
- 相手: 「あ、ごめん。今日の午前中までにお願いします。」
- あなた: 「承知いたしました。ありがとうございます。」
解説: まず「〇〇の件で確認させてください」と、何について話すのかを明確に伝えます。次に、自分が理解した内容(午前中)を伝えつつ、不明確な点(本日か、それ以降か)を具体的な言葉で尋ねます。「〜ということですが、〜でよろしいでしょうか」という形は、相手の指示を一旦受け止めた上で質問する丁寧な聞き方です。
例2:手順や目的が不明確な場合
同僚から「このデータを集計しておいてくれる?」と依頼されたが、何のデータを、どのような形式で集計すれば良いのか不明確な場合。
- NG例: 「はい、いいですよ。」(とりあえず手元にある関連データを探し始め、形式も適当に決めてしまう)
- OK例(アサーション):
- あなた: 「〇〇さん、データ集計の件、承知いたしました。いくつか確認させてください。」
- 相手: 「どうぞ。」
- あなた: 「集計するデータは、先週の売上データで合っていますか?それとも、もう少し前のデータも必要でしょうか。」
- 相手: 「あ、今週に入ってからのデータで大丈夫です。」
- あなた: 「承知しました。形式については、〇〇さんがいつも使っているような、日ごとの合計と商品別の内訳が分かる形がよろしいでしょうか。何か特別なフォーマットはありますか。」
- 相手: 「それで大丈夫です。ありがとう。」
- あなた: 「承知いたしました。進めておきます。」
解説: 依頼内容を一度受け止めたことを伝えつつ、複数の確認事項があることを先に伝えます。データ範囲や形式など、具体的な内容をピンポイントで質問します。特に形式については、相手が普段使っている形式を提案するなど、具体的な選択肢を提示しながら尋ねると、相手も答えやすくなります。「〜で合っていますか?」「〜がよろしいでしょうか?」という聞き方は、決めつけではなく確認のスタンスを示します。
例3:指示内容と自分の理解に齟齬がありそうな場合
上司から口頭で複雑な指示を受けたが、メモを取りきれず、自分が理解した内容に自信が持てない、あるいは指示に矛盾を感じる場合。
- NG例: 「はい、多分大丈夫です。」(後で自分の理解で進めてしまい、全く違う結果になる)
- OK例(アサーション):
- あなた: 「〇〇部長、ただいまの件、私の理解を確認させていただいてもよろしいでしょうか。」
- 相手: 「はい。」
- あなた: 「今いただいたご指示は、まずAのデータを用意し、次にBのシステムに入力、最後にCの担当者へメールで送付するという流れで合っておりますでしょうか。特にBのシステム入力の部分で、〇〇という点は、△△のように解釈したのですが、それでよろしいでしょうか。」
- 相手: 「ええと、Bのシステム入力のところはね、実はちょっと違ってて…(具体的な説明)」
- あなた: 「なるほど、〇〇ではなく△△なのですね。理解いたしました。ありがとうございます。」
解説: 指示内容の理解に不安があることを正直に伝えます(「私の理解を確認させてください」)。自分が理解した内容を具体的に要約して伝え、相手に「これで合っていますか」と確認します。特に不明確、あるいは自信がない部分を具体的に挙げて質問することで、相手もどこを補足説明すれば良いかが明確になります。この方法(パラフレージングと呼ばれることもあります)は、自分の理解度を確認する上で非常に有効です。
アサーションによる確認・質問の実践ポイント
曖昧な指示への対応にアサーションを実践する上で、いくつか意識しておきたいポイントがあります。
- タイミング: 可能であれば、指示を受けた直後に確認することが理想的です。時間が経つと、相手も指示の詳細を忘れてしまったり、状況が変わったりすることがあります。ただし、相手が明らかに込み入った作業をしている最中であれば、少し時間を置いてから「この後〇分ほどお時間をいただけますでしょうか」のように尋ねる配慮も必要です。
- 言葉遣い: 相手を問い詰めるような口調ではなく、「確認させていただけますか」「教えていただけますでしょうか」といった丁寧でへりくだった表現を使いましょう。
- 具体的であること: 何が不明確なのかを具体的に伝えましょう。「よく分かりません」だけでは、相手もどこを説明すれば良いか困ってしまいます。「〇〇の件で、特に△△の部分について詳しく教えていただけますか」のように、焦点を絞った質問を心がけてください。
- 目的を伝える(必要に応じて): なぜ確認するのかの目的を添えることで、相手に納得感を与えることがあります。「正確に作業を進めるために確認させてください」「〇〇さんの意図をしっかりと理解したいので」といった一言を添えるのも効果的です。
- 代替案や自分の考えを添える(応用): 複雑な指示で複数の解釈が可能な場合、「〜という解釈で進めようと考えておりますが、いかがでしょうか」のように、自分の考えや代替案を提示して確認することも有効です。これは、単に質問するだけでなく、自分で考えている姿勢を示すことにもつながります。
まとめ
職場で曖昧な指示を受けた際に、そのまま放置することは、業務の非効率化やミス、そして自分自身のストレスにつながります。アサーションを活用して、相手を尊重しつつ、必要な確認や質問を適切に行うことは、正確に仕事を進める上で不可欠なスキルです。
今回ご紹介した会話例や実践ポイントを参考に、まずは小さな一歩から試してみてください。「〇〇の件で、一つ確認させてください」という短いフレーズからでも構いません。正確なコミュニケーションを心がけることで、仕事の質が向上し、職場の人間関係もより円滑になっていくことでしょう。
曖昧な指示に対するアサーションの実践は、あなたの自信を高め、より主体的に仕事に取り組むための第一歩となるはずです。