職場で相手の間違いを指摘するアサーション:角を立てずに伝える建設的な会話例
職場では、チームで協力して業務を進める中で、他の人の作業に誤りがあったり、もっと効率的な方法があることに気づいたりする場面があります。そういった時、「相手に悪く思われたくない」「反論されたらどうしよう」と考えてしまい、なかなか指摘できないという方もいらっしゃるかもしれません。しかし、間違いを放置したり、改善の機会を逃したりすることは、業務の質を低下させたり、後々の大きな問題につながったりする可能性もあります。
ここでは、職場で相手の間違いや改善点を、関係性を損なうことなく、かつ建設的に伝えるためのアサーションの具体的な活用方法をご紹介します。アサーションを用いることで、自分の気づきを正直に伝えつつ、相手への配慮も示すことが可能になります。
職場で間違いや改善点を伝える難しさ
私たちは、相手の間違いを指摘することに心理的な抵抗を感じやすいものです。その背景には、「相手を傷つけてしまうのではないか」「自分が嫌われてしまうのではないか」「面倒な議論になるのではないか」といった不安があります。特に、相手が目上の方であったり、職場の人間関係に波風を立てたくなかったりする場合には、指摘をためらってしまう傾向が強くなります。
しかし、アサーションは、自分も相手も大切にするコミュニケーションの方法です。相手の間違いを指摘する場合でも、攻撃的になったり、逆に曖昧にしてしまったりするのではなく、事実に基づいて誠実に伝えることを目指します。
アサーティブに伝えるための基本原則
相手の間違いや改善点をアサーティブに伝えるためには、以下の点を意識することが重要です。
- タイミングと場所を選ぶ: 相手が落ち着いて話を聞ける状況を選びます。周囲に他の人がいない場所や、業務のピーク時間ではない時などが適切です。
- 事実に基づいて具体的に伝える: 感情論ではなく、何がどのように間違っているのか、具体的な事実やデータを示して伝えます。「いつも」「全然」といった曖昧な表現は避けます。
- I(アイ)メッセージで伝える: 自分の感情や意見として伝えます。「あなたは〜間違っている」ではなく、「私は〜という点で少し気になりました」「〜なっているようですが、何か理由がありますか」のように、自分を主語にして伝えます。
- 意図を明確にする: 指摘の目的が、相手を非難することではなく、問題解決や業務改善、チーム全体の利益のためであることを伝えます。
- 解決策や代替案を提案する(押し付けない): 間違いだけを指摘するのではなく、どうすれば良かったか、どう改善できるかといった提案を添えると建設的です。「〜した方が良いと思いますがいかがでしょうか」のように、相手の意見も求める姿勢が大切です。
- 相手の立場や状況に配慮する: なぜその間違いが起きたのか、相手に何か理由があったのかもしれないと考え、一方的に決めつけずに話を聞く姿勢を持ちます。
具体的な会話例
例1:同僚の資料に明らかな間違いがある場合
プロジェクトで協力している同僚が作成した資料に、数値データの間違いを見つけたケースです。
NG例(曖昧・遠回しすぎる)
「ねえ、この資料さ、ちょっと変なところない?」 (どこが変なのか伝わらず、相手は何のことか分からないまま不安になる)
NG例(攻撃的・一方的)
「このデータ、全然間違ってるよ。ちゃんと確認したの?」 (相手は責められていると感じ、反発したり心を閉ざしたりする)
OK例(アサーティブな伝え方)
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クッション言葉+意図の提示 「〇〇さん、少しよろしいですか。今拝見している資料の件で、一つ確認したい点がありまして。」 (相手に心の準備を促し、何の件か、なぜ話しかけたかを伝える)
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具体的な事実を伝える(Iメッセージで) 「このページの表の〇〇の数値なんですが、元データと照らし合わせると、△△になっているように見受けられるのですが、いかがでしょうか。」 (どこがどうなっているのか具体的に示し、自分の見え方として疑問形で伝える)
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もし間違いであれば、修正をお願いする/協力する意向を示す 「もし私の見間違いでなければ、後々影響があるかもしれないと思い、お伝えしました。ご確認いただけますでしょうか。何か手伝えることがあれば言ってください。」 (指摘の意図が善意であることを伝え、協力を申し出ることで、相手の負担を軽減する配慮を示す)
例2:部下の作業手順に非効率な点がある場合
部下がある定型業務を行っており、もっと効率的な手順があることに気づいたケースです。直接的な間違いではないが、改善を促したい状況です。
NG例(指示・命令的)
「そのやり方じゃ遅いよ。これからは〇〇の手順でやりなさい。」 (一方的で、部下の主体性や考える機会を奪う)
NG例(指摘が抽象的)
「もう少し効率的にやれないの?考えてみて。」 (具体的にどうすれば良いか分からず、部下は困惑する)
OK例(アサーティブな伝え方 - 提案型)
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良い点や努力を認める 「〇〇さん、いつもこの業務を丁寧に進めてくれてありがとう。」 (まず相手の貢献や努力を認め、受け入れられやすい雰囲気を作る)
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自分の観察や経験を伝える(Iメッセージ) 「この間の〇〇の作業を見ていて、一つふと思いついたことがあるんだけど、少し聞いてもらえるかな。以前私が同じような作業をした時に、△△という手順でやったら少し時間を短縮できたことがあったんだ。」 (一方的な指示ではなく、自分の経験談として提案する形で伝える)
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提案として提示し、相手の意見を求める 「もし良ければ、次にやる時にその△△の手順も試してみるのはどうかな? もちろん、今のやり方にも良さがあると思うから、もし難しい点や、今のやり方のメリットがあれば教えてほしいな。」 (あくまで提案であり、強制ではないことを伝え、相手の考えや意見も聞く姿勢を示す)
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サポートを伝える 「もし試してみて、分からないことや難しければいつでも聞いてね。」 (実践へのハードルを下げ、安心感を与える)
例3:会議で他の参加者の発言に事実誤認がある場合
会議中に、参加者のAさんが誤った情報に基づいて発言しており、その誤りを訂正する必要があるケースです。
NG例(遮る・否定する)
「いや、それは違います。〇〇が正しい情報です。」 (相手の発言を強く否定し、会議の雰囲気を悪くする可能性がある)
NG例(沈黙する)
(誤りを指摘せずに聞き流し、会議が誤った情報に基づいて進行してしまう)
OK例(アサーティブな伝え方)
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相手の発言を一旦受け止める 「Aさん、〇〇についてのご説明、ありがとうございます。」 (相手の発言の全てを否定するのではなく、まずは受け止める姿勢を見せる)
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丁寧な前置きをする 「その点について、関連する情報で一つ補足させていただけますでしょうか。」あるいは「その点について、私の認識と少し異なる部分があるため、確認させていただけますでしょうか。」 (直接的な「間違い指摘」ではなく、「補足」「確認」という丁寧な言葉を使う)
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具体的な事実やソースを示す 「先日共有されました資料の〇ページに記載されているデータでは、△△となっているかと存じます。」あるいは「〜の公式発表では△△とされています。」 (曖昧ではなく、参照元を明確にして事実を伝える)
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疑問形や確認を促す形で締めくくる 「この点、もし認識に違いがありましたらご指摘いただけますでしょうか。」あるいは「私の理解が間違っていましたら申し訳ございません。」 (謙虚な姿勢を見せ、相手にも再度確認する機会を与える)
実践のためのヒント
- 完璧を目指さない: 最初から全ての状況で完璧にアサーティブに話すことは難しいかもしれません。まずは簡単な状況から試してみてください。
- 具体的なフレーズを用意しておく: 上記の会話例を参考に、自分が使いやすいと感じるフレーズをいくつか準備しておくと、いざという時に落ち着いて話せます。
- フィードバックは「プレゼント」のつもりで: 相手の成長やより良い結果のために伝えるのだという意識を持つと、伝え方が変わります。
まとめ
職場で相手の間違いや改善点を伝えることは、多くの人にとって心理的なハードルが高い行為です。しかし、アサーションのスキルを用いることで、相手への配慮を忘れず、事実に基づいて建設的に伝えることが可能になります。
今回ご紹介した会話例や基本原則を参考に、まずは小さなことから職場で実践してみてください。アサーティブなコミュニケーションは、一時的な問題解決だけでなく、長期的な人間関係の構築や、チーム全体の成長にもつながる大切なスキルです。