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職場の人間関係を円滑にするアサーション:意見表明・質問・感謝・依頼の具体的な会話例

Tags: 職場, アサーション, コミュニケーション, 会話例, 人間関係, 意見表明, 質問, 感謝, 依頼

職場のコミュニケーションにアサーションを活用する

職場で自分の意見を伝えることや、不明点を質問することに抵抗を感じる方は少なくありません。また、同僚への感謝を十分に伝えられなかったり、適切な形で依頼をすることが難しかったりする場合もあるでしょう。これらのコミュニケーションの課題は、職場の人間関係に影響を与え、ストレスの原因となることがあります。

アサーションは、「相手も自分も大切にする自己表現」です。自分の正直な気持ちや考えを、相手を尊重しながら率直に伝えるスキルと言えます。職場でのコミュニケーションにおいてアサーションを意識することで、お互いを尊重しつつ、より健全で円滑な人間関係を築くことが可能になります。

この記事では、特に職場で多く直面する「意見表明」「質問」「感謝」「依頼」の場面に焦点を当て、アサーションに基づいた具体的な会話例をご紹介します。これらの例を通じて、日々の職場のコミュニケーションを改善するヒントを得ていただければ幸いです。

職場でのアサーション活用例

1. 意見表明

会議で自分の考えを伝えたい、提案に対して賛成あるいは反対の意見を述べたい、といった場面で、どのように伝えれば良いか迷うことがあるかもしれません。遠慮しすぎても伝わらず、強すぎても角が立ちます。アサーションでは、自分の意見を率直に、しかし攻撃的にならずに伝えます。

状況: 会議で新しいプロジェクトの進め方について議論している際、現在の提案に懸念点がある

NG例1(遠慮しすぎ): 「あの、ちょっとだけいいですか…?もしかしたら的外れかもしれないんですけど、少しだけ気になった点があるような、ないような…」 (自信のなさが伝わり、意見の内容が不明確です)

NG例2(攻撃的): 「そのやり方では絶対うまくいきませんよ。もっと現実的に考えないとダメです。」 (相手を否定し、一方的な印象を与えます)

OK例(アサーション): 「皆様のご意見、大変参考になります。ありがとうございます。この点について、一つ懸念している点がございます。〇〇のタスクに関して、現状の案ですと少し納期に間に合わない可能性も考えられるかと存じます。もし可能でしたら、△△のような進め方も選択肢として検討していただけないでしょうか。その方が納期内で安全に進められる可能性があると考えます。」 (相手への配慮を示しつつ、具体的な懸念点とその理由、代案を建設的に伝えています)

ポイント: * 相手の意見や場への配慮を最初に示す。 * 自分の意見や懸念点を「私はこう考える(Iメッセージ)」として明確に伝える。 * なぜそう考えるのか、理由や根拠を具体的に述べる。 * 可能であれば、代替案や解決策を提示する。

2. 質問

仕事の進め方や不明点を確認したい、同僚の専門知識について教えてほしいなど、職場で質問する機会は多々あります。しかし、相手の時間を取らせるのではないか、レベルの低い質問だと思われるのではないか、といった懸念から質問を躊躇してしまうことがあります。アサーティブな質問は、相手への敬意を示しつつ、必要な情報を得るための効果的な手段です。

状況: 担当している業務で不明点があり、先輩社員に質問したい

NG例1(曖昧・遠慮): 「すみません、ちょっと聞きたいことがあって…お忙しいところ申し訳ないんですが、もし手が空いたらいいですか…?」 (何を聞きたいか不明確で、相手もいつ対応できるか判断しにくいです)

NG例2(丸投げ): 「この資料のここ、よく分からないんですけど、どうすればいいんですか?全部教えてください。」 (相手への配慮がなく、一方的に負担をかけている印象を与えます)

OK例(アサーション): 「先輩、今お時間少しよろしいでしょうか。この資料の〇〇の部分についてご質問がございます。△△のデータを入力したいのですが、□□の箇所で判断に迷っておりまして。もしよろしければ、その判断基準について教えていただけますでしょうか。お忙しいところ恐縮ですが、ご教示いただけますと幸いです。」 (相手の状況を確認し、質問内容を具体的に伝えています。何が分からなくて、何を教えてほしいのかが明確です)

ポイント: * 相手の状況(忙しいかなど)を確認する一声をかける。 * 質問の要件を具体的に伝える(何を、何について)。 * なぜ質問したいのか、背景や状況を簡潔に説明する。 * 感謝の気持ちや相手への配慮(お忙しいところ恐縮ですが、など)を添える。

3. 感謝を伝える

同僚に手伝ってもらった、アドバイスを受けた、といった際に感謝の気持ちを伝えることは、良好な人間関係を築く上で非常に重要です。しかし、「すみません」「助かります」といった短い言葉だけで済ませてしまったり、具体的に何に感謝しているのかが伝わらなかったりすることがあります。アサーティブな感謝は、相手の行動を具体的に認め、その行動が自分にどう影響したかを伝えます。

状況: 締切に追われている時に、同僚が進んで手伝ってくれた

NG例1(不十分): 「あ、どうも。助かりました。」 (感謝していることは伝わりますが、ややそっけない印象です)

NG例2(過剰な遠慮): 「本当にすみません、お忙しいのにこんなに迷惑かけてしまって…。もう感謝してもしきれません…。」 (感謝よりも申し訳なさが前面に出てしまい、相手も恐縮してしまいます)

OK例(アサーション): 「〇〇さん、先ほどは本当にありがとうございました。締切が迫っていて正直焦っていたのですが、進んで手伝ってくださったおかげで、無事期日までに完了することができました。大変助かりました。心から感謝しております。」 (具体的に何に感謝しているのか、そしてその行動が自分にどう良い影響を与えたのかを具体的に伝えています)

ポイント: * 感謝の言葉を明確に述べる。 * 何について感謝しているのか、具体的な行動や内容を挙げる。 * その行動が自分にどう影響したのか(助かった、安心した、効率が上がったなど)を伝える。 * 「助かりました」「心から感謝しています」など、気持ちを込めた言葉を添える。

4. 依頼をする

業務の一部を他の人に頼みたい、協力を仰ぎたいといった場面も職場では頻繁に発生します。相手に負担をかけるのではないか、嫌がられるのではないか、といった思いから依頼を躊躇したり、曖昧な頼み方になってしまったりすることがあります。アサーティブな依頼は、相手の状況を尊重しつつ、自分のニーズを明確に伝えます。

状況: 自分が不在の間、簡単な業務を同僚に代わりに担当してほしい

NG例1(曖昧・強制的): 「〇〇さん、明日いないからこれお願いね。やっといてくれる?」 (一方的で、相手の状況を確認していません)

NG例2(過剰な遠慮): 「あの、もしよかったら、本当に気が向いたらでいいんですけど…明日のこれ、やっていただけたりすると大変嬉しいような気がしないでもないような…」 (依頼内容が不明確で、相手はどうすれば良いか分かりません)

OK例(アサーション): 「〇〇さん、来週の火曜日に終日外出する予定でして、一つお願いしたい業務がございます。△△に関する簡単なデータ入力なのですが、所要時間は15分程度かと存じます。もしその日、〇〇さんの業務にご無理のない範囲で引き受けていただくことは可能でしょうか。難しい場合は、他の方法も検討いたしますので、率直におっしゃってください。」 (相手の状況への配慮を示し、依頼内容、所要時間、期日を具体的に伝えています。相手が断る選択肢も提示しています)

ポイント: * 相手の状況(忙しさなど)への配慮を示す言葉を入れる。 * 依頼したい内容、期日、所要時間などを具体的に明確に伝える。 * なぜ依頼する必要があるのか、背景を簡潔に説明する。 * 相手が断る権利があることを示唆する(「ご無理のない範囲で」「難しければ他の方法も検討します」など)。

まとめ

この記事では、職場で頻繁に起こる「意見表明」「質問」「感謝」「依頼」の場面を取り上げ、アサーションを意識した具体的な会話例をご紹介しました。アサーションは特別なスキルではなく、日々の少しの意識と練習で身につけることができます。

自分の正直な気持ちや考えを、相手を尊重しながら伝えることは、相互理解を深め、より健全な人間関係を築く土台となります。初めは難しく感じるかもしれませんが、まずはご紹介した会話例を参考に、小さな場面から実践してみてはいかがでしょうか。アサーションの実践を通じて、職場のコミュニケーションがより円滑になり、仕事への取り組み方や人間関係のストレスが軽減されることを願っております。