職場で批判された時のアサーション：傷つかずに建設的な対応をする会話例
職場で働く上で、上司や同僚から業務に関する批判やフィードバックを受ける機会は少なくありません。こうした状況にどのように対応するかは、その後の業務の改善や人間関係の維持に大きく影響します。しかし、批判を個人的な攻撃と感じて傷ついたり、感情的に反論したり、あるいは何も言えずに抱え込んでしまったりすることもあるかもしれません。
こうした時に役立つのがアサーションというコミュニケーションスキルです。アサーションは、相手の権利や気持ちを尊重しながら、自分の考えや感情、要求を正直かつ率直に伝える方法です。批判された状況でアサーションを活用することで、感情的にならずに状況を把握し、建設的な対話を通じて問題解決や自己成長に繋げることが可能になります。
ここでは、職場で批判を受けた際の具体的なアサーション活用方法を、シーン別の会話例を交えてご紹介します。
職場で批判・フィードバックを受けた時のアサーティブな対応の基本
アサーティブに批判に対応するための基本的なステップは以下の通りです。
- 傾聴と受け止め: まずは相手の話を遮らずに最後まで聞き、フィードバックを受け止める姿勢を示します。この段階では、相手の意見に同意するかどうかに関わらず、「聞きました」という態度を示すことが重要です。
- 事実確認: 批判やフィードバックの具体的な内容や意図が不明瞭な場合は、質問をして事実関係や相手が伝えたいことの核心を確認します。
- 自分の状況や考えの表明: 事実に基づき、自分の認識や行動の背景を説明します。ここでは言い訳ではなく、状況や自分の考えを冷静に伝えます。
- 感謝と今後の行動: フィードバックをくれたことへの感謝を伝え、必要に応じて改善策を検討する姿勢や、具体的な行動計画を伝えます。
これらのステップを意識することで、感情的な応酬を避け、生産的な対話に繋げることができます。
シーン別アサーティブな批判対応の会話例
シーン1：上司から業務の進め方について批判された場合
ある業務の報告をした際、上司から「あの仕事の進め方には問題があった。もっと早く別のやり方に切り替えるべきだった。」と指摘を受けたとします。
NGな対応例:
部下: 「でも、あの時は〇〇の理由があって、あの方法しか取れなかったんです。」（すぐに反論する） 上司: 「いや、それは言い訳だ。もっと全体を見て判断しろ。」 部下: 「......はい。」（黙り込んでしまう）
アサーティブな対応例:
部下: 「〇〇の件についてのご指摘、ありがとうございます。具体的には、どのような点が問題でしたでしょうか。」（傾聴と事実確認） 上司: 「△△の状況変化があったにも関わらず、最初の計画に固執しすぎた点だ。そのせいで無駄な工数が発生した。」 部下: 「なるほど、△△の状況変化への対応が遅れた点ですね。確かに、最初の計画に囚われすぎて柔軟な判断ができていなかったと認識しております。今後は、状況の変化をより注意深く観察し、必要に応じて計画の見直しを迅速に行うようにいたします。」（事実の受け止め、自分の認識の表明、今後の行動提示） 上司: 「うむ、分かってくれればいい。次からは気をつけてくれ。」 部下: 「はい、ありがとうございます。今回のフィードバックを活かしてまいります。」（感謝と前向きな姿勢）
この例では、すぐに反論するのではなく、まず批判を受け止めて内容を確認しています。その上で、自分の非を認めつつ、今後の改善策を具体的に伝えることで、建設的な対話になっています。
シーン2：同僚からチームワークに関するフィードバックを受けた場合
チームで協力して進めているプロジェクトで、同僚から「もう少し〇〇さんのタスクの進捗を共有してほしかったな。連携が取りづらかったよ。」とやや感情的なトーンで言われたとします。
NGな対応例:
同僚: 「〇〇さんのタスクの進捗、もう少し共有してほしかったな。連携が取りづらかったよ。」 あなた: 「え、でも私は言われた通りに進めていましたけど？それに、そっちこそ全然状況を教えてくれなかったじゃないですか！」（感情的に反論し、相手を非難する）
アサーティブな対応例:
同僚: 「〇〇さんのタスクの進捗、もう少し共有してほしかったな。連携が取りづらかったよ。」 あなた: 「ご意見ありがとうございます。私のタスクの進捗共有が不十分で、連携が取りづらいと感じさせてしまったのですね。申し訳ありません。」（傾聴と共感の姿勢、事実の受け止め） 同僚: 「そうなの。特に△△の段階で、こっちは次に進めず困っていたんだ。」 あなた: 「△△の段階で具体的にご迷惑をおかけしたのですね。私の認識では、〇〇のタイミングで一度共有すれば十分だと考えていたのですが、今回の件で、よりこまめな情報共有が必要だったと学びました。」（事実確認、自分の認識の表明、学びの表明） あなた: 「今後、タスクを進める上で、どのようなタイミングや方法で共有すれば、より連携がスムーズになりますでしょうか？何かご希望があれば教えていただけますか。」（改善に向けた質問） 同僚: 「そうだね、例えば一日の終わりに簡単な進捗状況をチャットで送ってもらえると助かるかな。」 あなた: 「承知いたしました。今後は一日の終わりに、その日の進捗状況をチャットで共有するようにいたします。他に進め方で気になる点があれば、いつでもお声がけください。」（具体的な行動提示と協力の姿勢）
この例では、相手の感情的なトーンに引きずられず、冷静にフィードバックの内容に焦点を当てています。相手の気持ちに配慮しつつ、自分の考えも説明し、具体的な改善策について協力して話し合う姿勢を示すことで、関係性を損なわずに問題解決を図っています。
アサーティブな批判対応を実践する上でのポイント
- 感情に気づき、落ち着く: 批判されると誰でも感情が動揺するものです。すぐに反応せず、一度深呼吸するなどして冷静になる時間を持ちましょう。
- 「Iメッセージ」を活用する: 自分の感情や考えを伝える際には、「あなたは〜」と相手を主語にするのではなく、「私は〜と感じました」「私の認識では〜です」といった「Iメッセージ」を用いることで、攻撃的にならないようにします。
- 非難と事実を区別する: 相手の言葉に、感情的な非難が含まれている場合でも、その根拠となっている事実に耳を傾けるように努めます。
- 感謝の言葉を添える: どのような内容であれ、自分へのフィードバックは成長の機会を与えてくれるものです。「お忙しい中、フィードバックをいただきありがとうございます」といった感謝の言葉を伝えることで、相手も伝えやすくなります。
- すぐに完璧を目指さない: アサーションは練習が必要です。最初から全ての批判にアサーティブに対応できなくても問題ありません。少しずつ、できることから試していくことが大切です。
まとめ
職場で受ける批判やフィードバックは、時に耳の痛いものですが、自身の業務遂行能力を高め、より良い働き方を見つけるための重要な機会でもあります。アサーションを用いることで、感情に流されることなく、冷静かつ建設的にこれらのフィードバックに対応することができます。
今回ご紹介した会話例を参考に、職場で批判を受けた際にアサーティブなコミュニケーションを試みてください。繰り返し実践することで、批判を個人的な攻撃としてではなく、成長のための情報として受け止め、より健全な人間関係を築いていくことができるでしょう。