職場で自分の要望や希望を伝えるアサーション:相手に配慮した具体的な会話例
職場で自分の要望や希望を伝える難しさとアサーション
職場で「こうしたい」「これをお願いしたい」といった自分の要望や希望を伝えることに、難しさを感じている方は少なくないでしょう。特に、同僚や上司に自分の意見を伝えることに慣れていない場合、「わがままだと思われないか」「角が立たないか」と気にしてしまい、結局我慢したり、曖昧な伝え方になってしまったりすることがあります。
しかし、自分の状況や考え、希望を適切に伝えることは、自身の業務効率を高めるだけでなく、チーム全体の円滑なコミュニケーションや協力関係を築く上でも重要です。アサーションは、相手を尊重しつつ、自分の権利や意見、気持ちを正直かつ率直に表現するためのコミュニケーションスキルです。今回は、職場で自分の要望や希望をアサーティブに伝えるための具体的な会話例をご紹介します。
シーン別:要望・希望を伝える具体的な会話例
ここでは、職場で遭遇しがちな状況を例に、アサーションを活用した具体的な会話の流れをご紹介します。
シーン1:複数のタスクで手一杯、調整をお願いしたい時
新たな業務を依頼されたり、複数の業務の締め切りが重なりそうになったりした場合、何も言えずに抱え込んでしまうと、結果的に質が低下したり、締め切りに間に合わなくなったりするリスクがあります。自分の現在の状況を正直に伝え、対応可能な範囲や優先順位について相談することは、プロフェッショナルな対応です。
状況設定: 上司から新しい業務Aを依頼されました。しかし、既に進行中の業務Bと業務Cがあり、新しい業務Aも加わると、すべての締め切りに対応するのが難しくなりそうです。
NG例(曖昧にしてしまう、抱え込んでしまう): 上司:「山田さん、この新しい資料作成、お願いできるかな。来週の月曜までに必要なんだ。」 あなた:「あ、はい…。分かりました。」 (内心:やばい、他の業務もあるのに…。どうしよう、間に合うかな…。)
OK例(アサーティブに相談する): 上司:「山田さん、この新しい資料作成、お願いできるかな。来週の月曜までに必要なんだ。」 あなた:「ご指示ありがとうございます。一点ご相談させていただけますでしょうか。現在、業務B(〇〇の資料準備)と業務C(△△への問い合わせ対応)を進めておりまして、どちらも来週月曜日が締め切りとなっております。」
「つきましては、新しい資料作成(業務A)も加わりますと、すべてを月曜日までに完了することが、現状では難しいかもしれません。どの業務を優先すべきか、あるいは業務BかCの締め切りについて、調整のご相談をさせていただけますでしょうか。」
ポイント: * まず依頼内容を受け止めた姿勢を示す。 * 現在の具体的な状況(抱えている業務、締め切り)を事実として伝える。 * すべての対応が難しい可能性を正直に伝える。 * 「どうすれば良いか」ではなく、「このように調整できないか」「優先順位について相談したい」と具体的な提案や相談の意向を示す。 * 一方的に断るのではなく、解決策を一緒に探る姿勢を見せる。
シーン2:担当業務について希望を伝えたい時
現在の担当業務について、変更の希望があったり、特定の分野の業務にチャレンジしたいという希望があったりすることもあるでしょう。ただ漠然と「やりたい」と伝えるのではなく、自身のスキルや経験、意欲を結びつけて伝えることが重要です。
状況設定: 現在のデータ入力業務に加え、以前から興味があり、自己学習も進めているデータ分析の業務に携わりたいと考えています。
NG例(言えずに諦める): (データ分析の業務の話を聞きながら) (内心:ああ、あの仕事面白そうだな…。でも、今の業務もあるし、私がやりたいなんて言っても無理だろうな…。)
OK例(アサーティブに希望を伝える): あなた:「山田課長、現在担当させていただいておりますデータ入力業務で、効率的な作業の進め方について多くの学びを得ております。ありがとうございます。」
「一点、今後についてご相談させていただきたいことがございます。私は以前からデータ分析の分野に大変関心があり、個人的に書籍などで勉強を続けております。もし今後、データ分析に関する業務が発生する機会がございましたら、ぜひ担当させていただきたく存じます。これまでのデータ入力で培った細部への注意深さや、自己学習で得た分析の基礎知識を活かして、チームに貢献できるよう努めます。」
ポイント: * 現在の業務に対する感謝や評価できる点を先に伝えることで、不満からの要望ではないことを示す。 * 自分の希望や関心を具体的に伝える。 * その希望が、単なる個人的な欲求ではなく、自身のスキルや経験、貢献意欲に基づいていることを伝える。 * すぐに担当したい、と強く主張するのではなく、「機会があれば」「検討いただけると幸いです」といった形で、相手に検討の余地を与える伝え方をする。
シーン3:働き方(休暇や勤務時間など)に関する希望を伝えたい時
有給休暇の取得希望や、やむを得ない事情での勤務時間の調整など、個人の働き方に関する希望を伝える際も、配慮が必要となる場合があります。単に権利を主張するのではなく、業務への影響を考慮し、協力的な姿勢を示すことが大切です。
状況設定: 来月、家族のイベントで平日に有給休暇を取得したい日があります。
NG例(報告だけ、あるいは直前に伝える): あなた:「来月〇日に有給取ります。」 (事前に相談なく、業務への影響を考慮していない)
OK例(アサーティブに相談・申請する): あなた:「山田課長、来月〇日(△曜日)に有給休暇を取得させていただきたく、ご相談させていただけますでしょうか。」
「その日の業務につきましては、事前に〇〇の対応を前倒しで行っておく、必要な引継ぎ事項をリストアップしておくなど、チームにご迷惑がかからないよう、できる限りの準備を進めて参ります。」
「もし、その日で何か調整が必要な業務などがございましたら、ご指示いただけますでしょうか。あるいは、もしどうしても難しいようでしたら、別日での取得も検討可能でございます。」
ポイント: * 一方的な決定ではなく、「ご相談させていただけますでしょうか」という形で切り出す。 * 休暇取得の希望だけでなく、その日の業務への影響を考慮している姿勢を示す。事前に準備すること、引継ぎを行うことなどを伝える。 * 代替案(別日も検討可能など)を示すことで、柔軟性があることを伝え、相手に選択肢を提供する。 * 会社やチームのルール、状況を尊重する姿勢を見せる。
アサーティブに伝えるための共通のポイント
どのような状況で要望や希望を伝える場合でも、以下の点を意識することで、よりアサーティブなコミュニケーションが可能になります。
- 準備をする: 何を、誰に、どのように伝えたいのか、事前に考えを整理します。なぜその要望があるのか、伝えることでどのようなメリットがあるのか(自分にとってだけでなく、可能であればチームや会社にとって)、代替案は何か、などを検討しておくと、落ち着いて話すことができます。
- 適切なタイミングを選ぶ: 相手が忙しい時間帯や、他の人が多くいる場所では避け、相手が話を聞く余裕のある時間帯や場所を選びます。事前に「少しお時間をいただけますでしょうか」と確認するのも良い方法です。
- 具体的に伝える: 抽象的な表現ではなく、具体的な状況、事実、そして自分の具体的な希望や要望を明確に伝えます。「なんとなく嫌だ」ではなく、「〇〇の点で△△だと感じるため、□□のようにしていただけると助かります」のように具体化します。
- 「I(アイ)メッセージ」を使う: 相手を主語にする「You(ユー)メッセージ」(例:「あなたはいつも〜しない」)ではなく、自分を主語にする「Iメッセージ」(例:「私は〜だと感じる」「私は〜してほしいと願っています」)を使うことで、相手を責めることなく、自分の気持ちや考えを伝えることができます。
- 非言語コミュニケーションも意識する: 落ち着いた声のトーン、誠実な表情、適切なアイコンタクトなど、言葉以外の要素も、メッセージの受け取られ方に大きく影響します。
- 相手の反応を聞く姿勢を持つ: 自分の要望を伝えるだけでなく、相手の意見や懸念点にも耳を傾ける準備をしておきます。対話を通じて、お互いにとって最善の解決策を見つけることを目指します。
まとめ
職場で自分の要望や希望を伝えることは、難しいと感じることがあるかもしれませんが、アサーションのスキルを用いることで、相手への配慮を忘れずに、正直かつ効果的にコミュニケーションをとることが可能です。
今回ご紹介した会話例はあくまで一例です。ご自身の状況に合わせて、伝える内容や表現を調整してみてください。最初から完璧を目指す必要はありません。小さなことから、少しずつ自分の要望や希望を具体的に伝えていく練習を始めることが、自信につながる第一歩となります。アサーションを日々のコミュニケーションに取り入れ、より健全で建設的な人間関係を築いていきましょう。